序文

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当店の恩師、渡邊武(わたなべたけし)先生から頂いた金言です。店頭に掲げ座右の銘にしています。
「萬病 悉く除かれ 千苦 皆 救われんことを」まんびょう ことごとくのぞかれ せんく みな すくわれんことを

今は亡き父 河合斎(かわいひとし)も恩師渡邊武先生に師事し、漢方の聖典「傷寒論 金匱要略」の研究に没頭し生涯を捧げました。その父が遺してくれた傷寒論解説、金匱要略解説を私の理解できる範囲でまとめて参ります。ご覧頂いた方の健康回復の一助となれば幸いです。


諸言
傷寒論では病邪に犯され自然治癒力が減衰して死に至る様々の過程で現れる病証を通じて其の病理を解説し治療の原則を述べている。金匱要略では類似の病証を表わす病をまとめて病因の違いを述べている。
この二書は漢方の原典で難解ではあるが何回も読み返し理解が進むにつれて何とか病が見えるように成らねばという願いが強くなってきた。恐らくこの二書を遺した人は・・・張中景師と伝えられる・・・病が見える人で我々にも手探りで治法を誤らせぬようになされたのであろう。病が見えるというのは自然治癒力の障害で起こる病が何処の機能に赤ランプが点灯しているのか、病因は何かが見えるということで、近代医学で理学機器に頼ってガンや潰瘍を見つけるということではない。
病が見えるための傷寒論、金匱要略のバックボーンになっている基本原則は、陰陽論と五行論で後にこの二つは組み合わされて陰陽五行論と言われるようになったのであるが傷寒論、金匱要略の医学は陰陽五行論に基づいて医学としての体系が為されたのであり陰陽五行論を無視した漢方は存在しない。

陰陽論は一つの事象は陰陽相反する二つの調和で成り立っているという認識である。例えば男女の性別は男性ホルモン「陽」と女性ホルモン「陰」の一定の調和で生じ、男性ホルモンだけの男性は存在しないし、更に「陽」である男性の中にもと女性ホルモン「陰」の多い男性もあって陽中に陰が存在し、陰中にも陽が存在しその調和によって一つの事象は成り立っているというのが陰陽論の把握の仕方である。

五行論は複数が相関し一定の調和を得て存在する事象には、足らざるを奪い「相剋」、余すところを与える「相生」の原則が働いているという把握の仕方で、それを木火土金水の相関関係で表し、漢方ではこれに臓腑、器官、五体を配当し人体の生命の維持機構を把握し病の及ぶ順序を縦、横でつかまえる。更には五味五性「酸苦甘辛鹹、寒熱温涼平」、五入、五悪、補助益の原則で薬理、調剤原理、栄養の原理が組み立てられ、病像の把握には寒熱、虚実、気血水の物差しがあり、汗吐下和、補瀉の治療原則にしたがっている。

漢方が千五百年の間、無数の臨床を経て多くの病人を救い貴重な遺産として今日まで伝承されてきたという事実は、我々が地球に生存する限りこれらの原則が真理であることの証明でもある。西洋医学の始祖 ヒポクラテスの言葉で自然治癒力が病を治するのだというのは東西を問わない真理であるが、傷寒論、金匱要略を学んで医術を極めれば病を見ることが出来る筈で、治療原則及び方剤は自然治癒力の正常化を目的としてるのであり不老長寿の方法論でもある。
決して古い過去の未熟な医学ではなく二十一世紀の医療に貢献しうる未来へ向けての医学であり、薬学であり、栄養学であると信じている。願わくば傷寒、金匱を座右の書として反復学習し究めて方技済世の道とされんことを。ここまで金匱要略 諸言

傷寒論 金匱要略の病の把握、治療原則、方剤は自然治癒力の正常化を目的としているのであるから、漢方薬による病気の治療は即ち最良の予防医学であり不老長寿の方法論でもある。漢方は近代医学に欠ける部分を補い、二十一世紀の医療に貢献できる完成された医学であり、薬学であり、栄養学でもある。今日、医療の中で漢方の認識や応用は多彩であるが、願わくば原典に立ち返って過たず(あやまたず)張中景師の意を戴し方技済世を道とし貢献されんことを。

傷寒論、金匱要略には古今先賢の研究書が多く遺されており勉強には事欠かないのであるが、自分で頭の中を整理のつもりでまとめを始めたところどうしても理解の異なる所が数多くあり著名な先賢の意見と言えども必ずしも充分には張中景師の意が伝えられていない所のある事に気づいた。とは云え幾度書き直してみても私の理解もその都度満足のゆくものでは無く、命の続く限りはこれからも絶えず書き直し続けねばならないものと覚悟している。従って夫々の過程での理解を縁のある学徒に伝えて幾らかでも役立つことが出来れば幸いと思っている。

1994年 済世薬室 河合斎

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