痰飲咳嗽病脈証并治第十二 解説

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痰飲咳嗽病脈証并治第十二

消化管の水滞に因り裏気塞がれるに因る諸病証

1条 問うて曰く夫れ飲に四有りとは何の謂ぞや。師曰く痰飲有り懸飲有り溢飲有り支飲有り。問うて曰く四飲は何を以て異を為すか。師曰く、その人、素と盛ん今痩し水腸間を走り瀝瀝と声あるはこれを痰飲と謂う、飲後水流れて脅下に在り咳唾引痛するはこれを懸飲と謂う、飲水流行し四肢に帰せばまさに汗出ずべし而して汗出でず身体疼重するはこれを溢飲と謂う、咳逆椅息し気短かく臥するを得ずその形腫の如きはこれを支飲と謂う。 …支飲と懸飲は胸膈熱の鬱滞に差あり、脅下痛に差あり。(22条参照)

飲を分けると痰飲、懸飲、溢飲、支飲の四つに分けられる。生来元気だった人が胃腸の機能が低下してすっかり痩せ腸管に停水して水の動く音がする、この様な病症の者は痰飲と謂う。…脾気弱く停水に胃気塞がれる…。 飲に因り表裏通ぜず肺循環滞り脇下に鬱滯を生じ咳して唾を吐きその度脇下に引かれるように痛む者は懸飲と謂う。飲に因って胃気結し表気通ぜず肺に熱結し胸膈に炎症性の体液停滞…水腫を伴う(例えば肋膜炎)、飲に因り胃気塞がれ肺に熱結、飲に因る結胸である。水分の代謝がわるく蒸泄が弱く四肢や肌肉に停滞すれば熱がこもるので汗がでれば熱は除かれるが皮内に前浮腫症状を呈し陽気巡れず表が閉じれば汗が出ず深く熱は鬱滞し身体疼重する、この病症を溢飲と謂う…肌肉の停水に因る蒸泄障害…。 咳き込みが激しく呼吸促迫し椅子に凭れて俯せ横臥出来ず、肺気虚し顔は浮腫みっぽく水腫の様に見えるが(気分の如し)これは陰気閉じ胃気塞がれ水がつかえて下らず尿利を得ず表にも停水し肺から熱気を噴き出しているものでこの病症を支飲と謂う。…痰飲は脾胃虚弱、懸飲は胸膈に熱鬱滞、溢飲は蒸泄不良、支飲は陰閉じ胃気塞がれつかえた飲

2条 水心に在るは心下堅築し短気し水を悪み飲するを欲せず。

水肺に在るは涎沫を吐し水を飲まんと欲す。
水脾に在るは少気し身重す。
水肝に在るは脅下支満し嚔し而して痛む。
水腎に在るは心下悸す。(水気13条より17条は浮腫みの場合、此の条は飲の場合)

心気虚し心下に水滞がある場合はみぞおちが堅く築築と脈打ち陽気巡らず呼吸が浅く促迫し胃中冷えて水を嫌って飲みたがらない。肺気虚し肺の蒸泄が低下して水の滞りを生じた場合は薄い水様の痰を吐き肺に熱が滞るので水を欲しがる。(胃気虚するに因る)脾気虚し水滞する場合は湿を生じるので表の蒸泄は妨げられ肺に熱が入り息切れし表に陽気巡らず体は重だるい。肝気虚し門脈に血流鬱滞し周辺に水分の停滞を生じた場合は表気裏気滞るので脅下支満(胸脇苦満+腹直筋攣急)して脇下に支えられる様な圧迫感が在り胃気巡らずクシャミが出、その時脇下が痛む。…(1条懸飲参照)胃気乏しく懸飲に至らず腎気虚し津液が巡らない時は停水に因り胃気塞がれ陰気上衝して心下に動悸がする。

3条 夫れ心下に留飲有るは、その人背寒冷すること掌大の如し。

留飲の者、脅下痛み缺盆に引くは咳嗽すれば則ち輒わち已む。
胸中に留飲有るはその人短気し而して渇す。
四肢歴節して痛み脈沈の者は留飲有り。

一般に心下部に停水が留まる時は背中が手掌大に冷たく寒える。…胃の裏が冷える、(痰飲)

停水が留まり脅下が痛みその痛みが胸中を突き抜けて喉のところまで繋がる場合はこれは肺に熱結を生じたもので咳が出て熱結が散ればその度び痛みが治まる。(懸飲)
胃気弱く胸中に停水が留まる時は肺に熱が滞り呼吸促迫し喉が渇く。(支飲)
胃気乏しく表の蒸泄が滞り表熱が鬱滞すれば手足に歴節痛…節々をめぐって痛みが移動する、此の場合脈が沈の場合は表に留飲(前浮腫)が有る為に衛気伸びられず熱が鬱滞したのである。(溢飲)。

「留飲は四飲を総称し本条は水が留まる位置と証について述べたのである」

4条 膈上痰を病み満喘咳吐し発すれば則ち寒熱し背痛み腰疼き目泣自出しその人振振し身瞤(類証太陽中55条真武湯)劇しきは必ず伏飲有り。

平素痰持ちで胸満して喘咳し痰や唾を吐くが発作が起きると悪寒発熱し、背中が痛み腰が疼き涙が出、病人は筋肉が硬ばって体が揺れ劇しくピクピク痙攣する場合は症状は寒邪に因るものの様であるが潜在的な飲が在り支飲発作の病勢と証を述べている。

5条 夫れ病人飲水多きは必ず暴かに喘満す、凡そ食少なく飲多きは水心下に停し甚だしき者は則ち悸し微なる者は短気す、脈雙弦の者は寒なり、皆大下の後裏虚す、脈偏弦の者は飲なり。…寒疝15条参照 裏虚に飲が加わった脈状と病証

一体に水を沢山飲む病人は大抵消化管に停水を起こすので胃気を塞ぎ陰気上衝して俄かに胸満し喘する、一般に食が少なく飲み物が多いものは脾胃虚弱で(虚熱の為渇く)心下部に停水を起こし病状が甚だしい場合は胃気通ぜず陰気が上衝し奔豚のように衝き上げ心下にドキンドキン動悸がするし、症状の軽い場合は肺気に滞りを起こし呼吸促迫する。この時両尺脈とも小で弦脈(左を陽右を陰)を現している場合は裏寒に因るのである、これらの証は大下により裏気を虚せしめた為である、右手の尺脈だけが小で弦の場合は痰飲により裏気滞るのである。左尺は寒即ち胃気衰微し腎脈が現れ、右尺は痰飲による胃気の塞がりとする

6条 肺飲は弦ならず但喘し短気を苦しむ。(前条を受ける)

支飲も亦喘し而して臥する能わず、短気を加うるは其の脈平なり。痰飲を病む者はまさに温薬を持ってこれを和すべし。

肺飲の喘短気は痰飲に因る陰気の上衝ではなく胃気虚弱で肺気が衰え肺に水が滞るによる病症だから弦脈は現さず(陽気虚、寸弱)、但ゼーゼーが有り呼吸促迫し息切れするのである。支飲は肺気が鬱滯する為に肺飲と同様ゼーゼーし横臥出来ない程であるが更に呼吸促迫が加わる場合は熱の鬱滯を増し陰気衰え陰陽倶に虚衰したもので反って脈は調和し緊張が緩んで平脉の様である。…支飲、喘の脉、12条(木防已湯は喘満し心下痞堅、脈沈緊)10条(懸飲は肺に熱結び沈而弦)、一般に痰飲を病む場合は胃気が弱く水滞の寒に塞がれるのであるから脉は沈弦である、胃気を賦活をさせる温薬を用いて脾胃の機能を正常化させるべきである。

7条 心下に痰飲有り胸脅支満し目眩するは苓桂朮甘湯これを主どる。

茯苓桂枝白朮甘草の方   太陽中 37条
茯苓4 桂枝3 白朮2 甘草2

右四味水六升を以て煮て三升を取り分ち温めて三服す、小便則ち利す。

背悪寒等の証が有り心下に痰飲が有る為に胸脅支満し(胸膈に熱が滞り腹直筋が拘急してつっかい棒された様で胸脅が一杯に張り痞え)陽気巡らず眩暈する時は痰飲を去り胃気を通じる、苓桂朮甘湯の主治である。…胸膈に熱入り支飲に近い。

8条 夫れ短気し微飲有るは当に小便従り之れを去るべし、苓桂朮甘湯之れを主どる、腎気丸亦之れを主どる。…6条参照

一般に脾胃弱く微に痰飲の証があり肺気衰え呼吸促迫する場合は留飲を尿で利するのが良い、脾虚する場合は苓桂朮甘湯の主治である、腎気虚し津液巡らず肺気衰え呼吸促迫する場合は腎気丸の主治である。

9条 病者脈伏しその人自利せんと欲し利すれば反って快す、利すると雖も心下続いて堅満するは(これ留飲去らんと欲する故なり)。甘遂半夏湯これを主どる。

…結胸は寸脈浮(肺熱)関脈沈(胃気塞がる)、臓結は寸脈浮関脉小細沈緊(脾寒)

甘遂半夏湯の方
甘遂0.3 苦寒 胸腹の留飲(組織組織間の停水)半夏1芍薬1甘草0.7

右四味水二升を以て煮て半升を取り滓を去り蜜半升を以て薬汁を和し煎じて八合を取りこれを頓服す。(蜜は薬の吸収を緩和する烏頭湯も同じ、脾胃を援け体液を補う)   大黄甘遂湯には蜜を用いてない

病人の脈は沈伏して触れ難く(水気の脈、胃気塞がる脈、臓結は寸浮関小細沈緊)心下堅滿し(青筋を現すもの大黄甘草湯に似たり『皇漢医学』)下利しそうな感じで胃気微に通じ下利すると僅かに水滯除かれるので反って気持ちがよいが(裏急後重などの証もなく)下利しても依然心下は堅く脹満した儘である。此れは胃内停水が堅滿の病因でなく心下部に血流が鬱滯し胃気通じない為に心下堅滿するもので(気水の大きさ盤の如く辺旋盃の如しと対比して見る)組織内に停滞する水分によるものと考えられる。欲自利、便意を催すのは自然治癒力の現れで胃気やや回復し留飲を除こうとするが未だ留飲に勝つ程の力はなく僅かに滞る停水を下すだけである、この様な証を表すときは留飲を除くには甘遂半夏湯を用いる、主治薬である。…尿利、瀉下による。(熱型の支飲…支飲は心気乏しいに因る)肝臓の病変に因る腹水の説(森田幸門)。 心下堅滿は肝臓左葉腫大の説(湯本求眞)留飲(痰飲が一所に停滞するを云う、懸飲の条参照)

10条 脈浮而して細滑なるは傷飲。
脈弦数なるは寒飲有り冬夏は治し難し。
脈沈而して弦なる者は懸飲、内痛す。
懸飲を病む者は十棗湯これを主どる。 太陽下26条

十棗湯の方
芫花 辛温 胸膈の炎症性の滲出液を吐下して去る 甘遂 苦寒 大戟 苦寒 熱を塞いで停滞する腸管の水

右三味搗き篩い水一升五合を以て先ず肥えたる大棗十枚を煮て八合を取り滓を去り薬末を内れ強人は一銭匕、羸人は半銭を服す、平旦にこれを温服す、下さざる者は明日更に半銭を加う、快下を得て後糜粥にて自ら養う。

飲の脈による弁別(心下が痞え)脈浮で細滑の場合は飲に因って脾胃を損ね胃気滞り表熱を増し脈浮、按じて細で滑を帯びる、傷飲は飲の浅いものである、即ち飲により裏気が滞り表に負担が及んでいるのである。  (心下が痞え)脈が小で弦数の場合は脾気虚、栄血虚の数で飲により胃気虚し裏気滞るのである、即ち寒飲があるのだから冬は外寒のため更に陽虚し、夏は暑により裏寒外熱して蒸泄出来ず加えて多飲しこれらの季節には咳は治しにくいのである。(心下痞滿し寸)脈が沈で弦、緊張が強い場合は飲により裏気塞がれ胃気鬱滞し熱内陷し肺に熱結を生じた懸飲であって膈内に痛みを伴う。懸飲を病む者は十棗湯の主治である。(懸飲は飲に因る結胸)懸は懸痛の懸

11条 溢飲を病む者は当にその汗を発すべし、大青龍湯これを主どる。小青龍湯も亦これを主どる。 太陽中8条、9条

大青龍湯の方
麻黄 6両 桂枝 甘草 杏仁 生姜 大棗 石膏

右七味水九升を以て先ず麻黄を煮て二升を減じ上沫を去り諸薬を内れ煮て三升をとり滓を去り一升を温服し微に汗に似たるを取る、汗多き者は温粉にてこれを粉す。

小青龍湯の方
麻黄 芍薬 五味子 乾姜 甘草 細辛 桂枝 半夏

右八味水一斗を以て先ず麻黄を煮て二升を減じ上沫を去り諸薬を内 れ煮て三升を とり滓を去り一升を温服す。

溢飲は表塞がり肌肉に水気を生じ汗を得ず、であるから発汗で水気を抜き熱を去るべきである。大青龍湯の主治である。証に応じ溢飲を病み胃に停水が有る場合は小青龍湯も亦主治する。

12条 膈間支飲にてその人喘満し心下痞堅し面色れい黎黒その脈沈緊、これを得て数十日、醫これを吐下して愈えざるは木防已湯これを主どる。虚する者は即ち愈ゆ、実する者は三日に復た発す、復た与えて愈えざる者は木防已湯去石膏加茯苓芒硝湯これを主どる。

木防已湯の方
木防已3 辛平 風寒の湿熱 石膏10  桂枝2 人参 4

右四味水六升を以て煮て二升を取り分ち温め再服す。

木防已去石膏加茯苓芒硝湯の方
木防已 桂枝 人参 芒硝4 茯苓

右五味水六升を以て煮て二升を取り滓を去り芒硝を内れ再び微煎し分ち温め再服す微に利すれば則ち愈ゆ。膈間は膈の間の気道食道の中間(宇津木)…支飲は痰飲1条

膈間に支飲を生じ肺気滞り病人はゼーゼーして胸脹満し陰気上衝して心下部が堅く痞え、顔色は鬱血して黒ずんだ黄色味を帯び(湿熱鬱滯に因る)脈状は沈緊である…脾寒し裏気通ぜず表及び心気塞がれ飲水下れず膈間を塞ぐ。この様な病証を起こして数十日を経過しその間吐下の法を加えて喘満心下痞堅が除かれない場合は胸膈の熱実や胃の熱実が病因ではなく膈間の支飲を除かねばならない、腸管に停滞が無ければ木防已湯を用いて脾を援けて鬱滯する湿熱を除いて表を通じれば治癒する、主治薬である。腸管に停滞がある場合は三日程経つと再発するがこの時はもう一度与えて治らない場合は燥屎を除くため芒硝を加え木防已去石膏加茯苓芒硝湯を与え胃の働きを正常化するとよい、主治薬である。

13条 心下支飲有りてその人冒眩を苦しむは沢瀉湯これを主どる。

沢瀉湯方
沢瀉5 甘寒 血中の湿熱 白朮2 苦温 胃気塞がる、胃の湿を除き陽気を巡らす。

右二味水二升を以て煮て一升を取り分ち温め再服す。

下焦に陰実し胃中に支飲を生じ…痰飲1条、心下満して堅く陽気巡らず始終頭がボーッとして眩暈がする場合は小便を利して陽気を巡らす、沢瀉湯の主治である。(陽虚)

14条 支飲胸満する者は厚朴大黄湯これを主どる。

(木防已湯去石膏加茯苓芒硝湯)を參照

厚朴大黄湯の方…支飲で胸膈に熱(胃実)
厚朴 10 苦温 裏にこもった熱気を散らす 大黄 6 枳実 2.8

右三味水五升を以て煮て二升を取り分ち温め再服す。

支飲で…(痰飲1条、形水腫の様で喘し息苦しく)胸満し、腹満不大便の証がある場合は胃に熱が結し留飲を押し上げた支飲で肺気が塞がれ胸満するものでこの時は大便を通じ下から熱気を去り支飲を引き降ろす、厚朴大黄湯の主治である。…小承気湯、厚朴三物湯に比べ特に厚朴大黄の量が多い (前条と寒熱の差 厚朴三物湯(厚朴8大黄4枳実3.5腹満痛)小承気湯(厚朴2大黄4枳実2.1陽明熱不大便)

15条 支飲息するを得ざるは葶藶大棗瀉肺湯これを主どる。…肺廱10条、14条(肺水と支飲の相違痰飲6条)

支飲で(痰飲1条)、呼吸が苦しく吸気出ずるを得ざる者は上焦胸咽の支飲が肺気を塞ぎ肺に熱が鬱滞する為の呼吸障害で胃気を補い水道を通じ肺熱の壅滯を瀉する葶藶大棗瀉肺湯の主治である。…肺廱喘不得息、肺癰胸満脹一身面目浮腫は邪熱壅滯、支飲で咳逆椅息短気面目浮腫し不得臥は陽気巡らず肺熱噴出し、病症は肺であるが胃気虚衰し胸咽部の支飲が気を塞ぐ。

16条 嘔家本渇す、渇する者は解せんと欲すとなす、今反って渇せざる者は心下に支飲有る故なり。小半夏湯これを主どる。

小半夏湯の方
半夏10 生姜8

右二味水七升を以て煮て一升半を取り分ち温め再服す。

嘔吐すると胃中乾くので本来は渇が有るものであるが、嘔吐し渇する場合は水の停滞は除かれ胃気回復しているのであるから間もなく治癒しょうとしていることを意味する、ところが反って渇が無く嘔吐する場合は陰閉じ心下部に支飲が支えて胃気逆し嘔吐するのである。この場合は小半夏湯の主治で停水を除き気を降す。…支飲で気逆

17条 腹満し(胸腹より少腹まで滿)口舌乾燥するはこれ腸間に水気あり已椒藶黄丸これを主どる。

防已椒目葶藶大黄丸の方…腸管の水滞で胃気塞がれ血中に陰虚血熱
防已 辛平 風寒による肌肉の湿熱 椒目 腹中の水気 葶藶 大黄

右四味これを末にし蜜にて丸し梧子大の如くす、食に先だち一丸を飲服す、日に三服しやや増す、口中津液有り渇する者は芒硝半両を加う。

腹満して口舌乾燥を伴う時、腹満は裏気不通により、口舌乾燥は血中の津液衰え肺熱劇しく熱気を噴き出すに因る、渇、潮熱譫語の証が無いのは腸間の水分停滞に因り胃気が通じない為に肺熱を生じたもので胃熱実では無いからである、葶藶椒目で水滞を除き大黄で大便を通じ防已で表の湿熱を去り気を通じる、已椒藶黄丸の主治である。口舌乾燥でなく少し潤いが在って渇が在り腹満がある場合は燥屎が塞ぐ為の腹満、渇で津液の損傷劇しからざるに因る、芒硝半両を加えて燥屎を除く。…胃腸の水滞が裏気を塞ぎ津液巡らず肺熱する。(14条 厚朴大黄湯は胃気結し胸膈に熱、本条は水滯し陰虚熱)

18条 卒かに嘔吐し心下痞するは膈間に水有り、眩悸する者は小半夏加茯苓湯これを主どる。…支飲

小半夏加茯苓湯の方
半夏 生姜 茯苓

右三味水七升を以て煮て一升五合を取り分ち温め再服す。

其れらしい原因もないのに、急にムカムカして吐き、吐いた後でも心下の痞えが除かれず目眩し心下悸するのは脾気逆して胃気下れず塞がれるからで膈間に支飲を生じているのである。茯苓で脾気を巡らし半夏生姜で逆気を下げて陽気を巡らす、小半夏加茯苓湯の主治である。

19条 仮令ば痩人、臍下悸あり涎沫を吐し而して癲眩するはこれ水なり五苓散これを主どる。 …痰飲(痩人)。癲眩は頭眩甚だしきなり。胃氣乏しく熱気上衝に因る頭眩

五苓散の方

沢瀉3.05 甘寒胃の湿熱 猪苓1.8 甘平 尿を出し膀胱の熱を除く
茯苓1.8  白朮1.2 桂枝1.8

右五味末と為し白飲にて方寸匕を服す、日に三服す、多く暖水を飲み汗出ずれば愈ゆ。

もし、脾胃弱く痩せている人が臍下にドキドキがあり泡の混じった唾を吐出しその上倒れそうにクラクラ眩暈がする場合は胃内停水により陽気が塞がれているものである、五苓散で停水を除き陽気の巡りをよくしてやればよい、主治薬である。…熱気上衝を伴う

附方

20条 外臺茯苓飲は心胸中に停痰宿水あり自ら水を吐出し後心胸間虚して気満し食する能わざるを治す、痰気を消し能く食せしむ。(支飲に類す)

外台茯苓飲の方
茯苓3 人参3 白朮3 枳実2 橘皮2.5 生姜4

右六味水六升にて煮て一升八合を取り分ち温め三服す、人の八九里を行くが如くにしてこれを進む。…約一時間半

外臺茯苓飲は胃気弱く心下から胸中にかけて久しく停痰宿水が滞り上溢して水を吐出し、心胸間の停痰宿水は除かれても猶胃気弱く塞がれて下らず胃が張満し食事が食べられないという病症を治する、消化管の痰飲を去り胃気の結を和して脾胃を調和し食欲を増さしめる効果を持つ。

21条 咳家その脈弦なるは水有りと為す、十棗湯これを主どる。

久咳の者で脈が弦で強い場合は裏気痰飲で塞がれ肺に熱結し懸飲を生じているのである、十棗湯で下す、主治薬である。 …10条参照

22条 夫れ支飲家咳して煩し胸中痛み有る者卒に死せず一百日或いは一歳に至るは十棗湯によろし。太陽下25条 支飲から懸飲へ移行

慢性に経過した支飲の病人が咳をして胸煩胸痛の証を現しそれが急症でなく百日或いは一年に及ぶ場合は懸飲を生じているのである、十棗湯を用いるのが宜しい。

23条 久咳数歳その脈弱の者は治すべし、実大数の者は死す、その脈虚の者は必ず冒を苦しむ、その人本と支飲有りて胸中に在る故なり、治は飲家に属す。…陽気衰えるに因る冒 25条参照

数年も咳が続いている場合脈弱の場合は肺痿に因るものであるから治癒させることが出来る、脈が実大数になっている場合には熱が劇しく膿廱を為し脾気虚衰したもので治癒は難しい、久咳で虚脈「遅、弱、濡」の場合は大抵頭がボーッとして物が被さった様な病症を伴うがそれはもともと陽気乏しく支飲が有り肺気虚する為で陰気上衝し上焦に陽気(熱気)集まり冒を現すもので治法は飲と同じである。…苓桂五味甘草湯

24条 咳逆倚息し臥すを得ざる者は小青龍湯これを主どる。…支飲の証(1条)参照 …喘して臥するを得ず(肺癰)

こみ上げる咳で呼吸が苦しく座って突っ伏した儘横臥出来ない程劇しい病症は支飲の病証であるが本条の場合は胃内停水の者が風、寒に犯され表裏塞がれ心下が痞え横臥出来ず肺から熱気を噴きだしている病症で、小青龍湯は表を開き胃内の停水を去る両治の方であるから小青龍湯の主治で、椅息不得臥は咳逆の劇しさと胃内の停水で肺の熱気の劇しさを現す、続く条文から支飲との判別の必要を述べている。…表裏の塞がりに加えて停水による胃気の塞がりで表熱を増し呼吸困難が劇しい(表の熱気は肺脹より少い石膏なし)

25条 青龍湯下し已り唾多く口燥き寸脈沈尺脉微手足厥逆し気小腹従り上って胸咽を衝き手足痺しその面翕然として酔状の如し、復下り陰股に流れるに因り小便難く時に復た冒する者は茯苓桂枝五味甘草湯を与えその気衝を治す(陽気を亡ぼし肺熱し賁豚状)

桂苓五味甘草湯の方(衝氣)…裏気塞がれ血熱を増すと出血に繋がる
茯苓4 桂枝4 甘草3 五味子3 酸温 肺の水気を除き肺気を斂する、通りを良くして噴き出すのを静む(奔豚の苓8桂4甘草3大棗5は尿利で下を通じる)

右四味水八升を以て煮て三升を取り滓を去り分ち温め三服す。(一回一升)

(前条を受けて)青龍湯を飲んだあと肺寒して唾が多く出、口中は熱気を吐いて燥き寸脈沈尺脉微手足先から冷え上がるのは脾に寒がある支飲の者を発汗させたので更に陽気を亡ぼし陽気は内陷して結し陽気四肢に巡らず胃気下らず賁豚状を現す(下行血流が障害され腹部平滑筋の痙攣をおこし)即ち陰気上衝して小腹から胸元にかけて絞られるような異状感が衝き上げ頭面に陽気集まり(熱気が集まり)ポッポッとほてって酒に酔ったようになったのである、更に再び絞られるような異常感「陰気」は下方に下って股間に波及し尿道も塞がって尿が出ず、再び上衝し一定の時を置いて冒を現わす、このような場合は苓桂五味甘草湯で脾気を巡らして胃気を通じ肺気を收めて気衝を治するのである。…胃気弱く脾寒の者を発汗し陽気を損じた壊証である。(咳と噎せるは随伴条件)

26条 衝気即ち低り而して反って更に咳し(前条も咳がある、随伴条件)胸満する者は桂苓五味甘草湯去桂加乾姜細辛を用い以てその咳満を治す。…前条より更に陽気乏しく下焦寒(乾姜、細辛)

苓甘五味姜辛湯の方 (苓甘姜味辛湯)(激咳滿)
茯苓2 甘草1.5 乾姜1.5 細辛1.5 中を温め水表を塞ぐに用いる 五味子1.5

右五味水八升を以て煮て三升を取り滓を去り温めて半升を服す、日に三服す。

苓桂五味甘草湯を服し表気は回復し衝気は治まったが中焦の寒が除かれず陽気巡れず表機能するに到らず肺の負担を増し反って(苓桂味甘湯にも咳有り)一層咳が激しくなり肺気滞り胸満する場合は桂苓五味甘草湯から桂枝を除き乾姜細辛を加え中焦を温め寒湿の冷えを除いて表を通じ咳を止める。苓桂五味姜辛湯去桂加乾姜細辛湯を用いる。

27条 咳満即ち止み而して更に復た渇し衝気復た発する者は細辛乾姜は熱薬と為すを以てなり、これを服すれば当に遂に渇すべし、而して渇反って止む者は支飲(咳胸満は随伴)と為すなり、支飲の者は当に冒すべし(必須)、冒する者は必ず嘔す、嘔する者は復た半夏を内れ以てその水を去る。(支飲1条、咳逆椅息短気不得臥其形如腫謂之支飲)

桂苓五味甘草去桂加乾姜細辛半夏湯の方 (苓甘姜味辛夏湯)(咳滿嘔冒)
茯苓2 甘草1.5 細辛1.5 乾姜1.5 五味子1.5 杏仁2.5 半夏2.5

右六味水八升を以て煮て三升を取り滓を去り半升を温服す、日に三服す。

桂苓五味甘草去桂加乾姜細辛湯を服し咳満は止んだが今度は再び渇の証が現れ再び衝気の証を発する場合、細辛乾姜は熱薬であるから急に胃熱を増し脾気伴わない為の熱気の上衝であり脾気回復すれば治する、服後胃の陽気を増せばその兆として当然渇の証が現れるのであるが、その渇がすぐに止んでしまう場合は未だ支飲が除かれないのである、支飲があれば胃気塞がれ陽気巡らず発散が滞るので頭部に熱気が集まり冒を現す筈でありその場合胃気逆し大抵嘔を伴う、支飲が除かれず嘔する場合は桂苓五味甘草去桂加乾姜細辛湯に更に半夏を加えて心下の水を去れば良い。

28条 水去り嘔止みその人形腫する者は(必須)杏仁を加えこれを主どる。その証麻黄を内るるに應ずるもその人遂に痺するを以ての故にこれを内れず、若し逆し而してこれを内るる者は必ず厥す、然る以所の者はその人血虚す、麻黄はその陽を発する故なり。

苓甘五味加薑辛半夏杏仁湯の方(咳浮腫冒)
茯苓 甘草 五味 乾姜 細辛 半夏2.5 杏仁2.5

右七味水一斗を以て煮て三升を取り滓を去り半升を温服す、日に三服す。

桂苓五味甘草去桂加乾姜細辛半夏湯を服し、心下の水去り嘔も止んだが浮腫みがあり
(気水)咳する場合は(必須)支飲が除かれず表に水気が滞るのであるから杏仁を加えて気管粘膜の水気を去り肺気を援け肺の熱を除いてやるとよい。主治薬である。その証は表に水が停滞し肺に負担を生じ咳逆するのだから表を開き発汗させる麻黄を加える証と同じであるが麻黄、桂枝で発汗させると更に栄衛を失いその結果痺を生じるのでこれを加えず杏仁を加えて肺気を援けるに止めるのである、若し違反して麻黄を加えると必ず厥冷の証を起こす、それは前に青龍を用い陰気の上衝を起こしている則ち裏気乏しく血気乏しい人である、麻黄を用いると汗を出し発散の為に一層陽気を損じるからである。

29条 若し面熱し酔の如きはこれ胃熱上衝しその面を熏ずると為す、大黄を加え以てこれを利せ。

苓甘五味加薑辛半杏大黄湯の方  (苓甘姜味辛夏仁黄湯)(咳冒面熱)
茯苓 甘草 五味 乾姜 細辛 半夏 杏仁 大黄1.5

右八味水一斗を以て煮て三升を取り滓を去り半升を温服す、日に三服す。

桂苓五味甘草去桂加乾姜細辛半夏湯を用い若し咳し顔がホテリ酒に酔った様にボーッとのぼせてくる場合は支飲去らず裏気塞がれ乾姜細辛で胃熱を増した為に熱気が上焦に向かい上焦に血流が鬱滞したのである、大黄を加え胃熱を潤し大便を利し胃気を通じてやると良い。

30条 先に渇し後嘔するは水心下に停すると為す、これ飲家に属す、小半夏加茯苓湯これを主どる。

嘔の病症がある場合先に渇があり多飲しその後嘔の証が現れた場合は脾胃弱く胃熱滞る為に渇し水を多く飲み胃中に停水を生じ裏気塞がれ逆するのである、小半夏加茯苓湯の主治である。…支飲

懸飲 咳唾引痛喘 心下堅脉沈而弦
溢飲 咳逆椅息短気、如腫 大青龍湯,小青龍湯(太陽中8,9条)
支飲 喘滿心下堅、脉沈緊面色黎黒   木防已湯
不得息は葶藶大棗瀉肺湯
咳、煩、胸中痛  支飲から懸飲に移行
溢飲を小青龍湯で発汗し陽気衰え衝気(支飲に移る)苓桂味甘湯
衝気下がり反咳,胸満     苓甘姜味辛湯
冒、咳、胸満          苓甘姜味辛夏仁湯
伏飲 膈上病痰、滿喘吐 寒熱背痛腰疼目泣
喘滿 脉雙弦は寒、偏弦は飲

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