傷寒論 辧不可発汗病脈証并治 第十五 解説

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辧不可発汗病脈証并治第十五

1条 夫れ思えらく 疾病の急なるに至り倉卒に尋ねて按ずれば要なる者は得難し故に重ねて諸の可と不可の方治を集む、之れを三陰三陽の篇中に比ぶれば此れ見易き也、又時に是の三陰三陽に足らざる有るは出だして諸の可と不可の中に在る也。

2条 脈濡而して弱 弱は反って関に在り濡は反って巓(寸脈軽按)に在り、微は反って上(寸脈中按)に在り濇は反って下に在り、微は則ち陽気不足、濇は則ち血無し、陽気反って微なるは風に中れば汗出で而して反って躁煩す、濇は則ち血無く厥し而して且つ寒ゆ、陽微なるは汗を発すれば躁し眠るを得ず。
…不可下1条に類文参照 …脾胃虚し栄衛乏しきは不可発汗 平脈47、48条(濡、微)

悪寒発熱等の表証が有り汗を発したい病証であるのに脈状は濡で按じて拍動は弱である、弱は陽気の旺んであるべき関脈に反って甚だしく表証が有るのに寸口は反って濡が甚だしく按じると微で尺中も数にならずに反って濇である。寸口の微は胃気弱く陽気乏しく尺中の濇は血液乏しく血行が悪いのである、陽気が微であるときは風に中れば衛気を損じ汗が出るが榮気を失い熱が鬱滯し反って躁煩する、濇脈は血流が乏しく手足は冷えて悪寒する、此の場合は裏気虚するのであるから脾胃を補わなければならない、脾胃虚し陽気微である場合に発汗させると栄衛倶に損じて躁煩し安静に眠る事ができなくなる。

3条 動気右に在るは汗を発すべからず汗を発すれば則ち衄し而して渇し心煩を苦しみ飲めば即ち水を吐す。
…難十六難 不可下2、22条参照 …(裏寒し)肺気の動。四逆湯 人参湯河図で(東)(左)肝、(西)(右)肺、(南)(上)心、(北)(下)腎。人体では自分の左が肝、右が肺、上が心、下が腎、臍は中心で脾。

発熱し臍の右に動気「ドキンドキン」が有るのは胃気虚し表気が衰えて熱が滞った者で発汗を用いてはならない、汗を出させれば陽気を損じて更に肺熱を増し熱気上衝して衄し渇し心煩し渇して水を飲めば胃寒を生じ吐く。胃虚し裏気滞るに因る動、陽気の虚

4条 動気左に在るは汗を発すべからず汗を発すれば則ち頭眩し汗止まず筋愓肉瞤す。
…不可下3条参照、脾気虚し血中に熱を増した肝気の動

発熱し臍の左に動気する場合は脾気虚し腸管に水滞し血中に体液が補えず血熱しているのであるから発汗させてはならない発汗させると更に熱を増し頭がクラクラして汗が止まらず肌肉は乾き筋肉がピクピク引き攣れ肌がピクピク痙攣する。

5条 動気上に在るは汗を発すべからず汗を発すれば則ち気上衝し正に心端に在り。
…不可下4条参照、心気虚し裏気滞るの動  茯苓

発熱し臍の上に動気が在る場合は脾胃虚し血中に体液補えず熱が滞る心気の昂りであるから発汗させると一層胃気を損じて裏気滞り、腎気上衝して下腹から異常感が衝き上げ心臓下端に及ぶ(奔豚を起こそうとする)、発汗させてはならない。桂枝去桂加茯苓甘草湯、発汗後は苓桂甘棗湯

6条 動悸下に在るは汗を発すべからず汗を発すれば則ち汗無くして心中大煩し骨節苦疼し目運し悪寒し食すれば則ち反吐し穀進むるを得ず。 …腎陰虚し腎気の動 難16難 不可下5条参照

発熱し臍の下に動気が在る場合は腎気の昂りによる動で裏虚外熱であるから発汗させてはならない血中に体液が乏しいので汗が出ず胸膈に熱が鬱滞し心煩が甚だしく津液が巡らず発散が出来ないので関節にも熱が滞り重だるく疼き上焦に陽気巡らず眩暈が激しく焦点定まらず悪寒し脾胃は虚し食べた物が何時までも胃に停滞し時間が経ってその儘吐し食べさせる事が出来ない…臍の周囲にドキンドキンが在る場合は腎気虚する者で裏気虚しているので表熱が有っても発汗させてはならない。胃気腎気ともに衰微する。裏虚外熱は不可発汗

7条 咽中閉塞するは汗を発すべからず汗を発すれば則ち血を吐し気絶せんと欲し手足厥冷し踡臥せんと欲し自ら温むる能わず。 下厥上竭は少陰14条参照 不可下6条

咽中閉塞感は咽喉から熱気を噴いているのである。下焦に寒があり栄衛巡らず発散できない熱気を呼吸で出しているので肺中に熱気が滞る、表の塞がりと誤って発汗させてはならない発汗させると上竭「上焦に陰気竭し」下厥「下焦に元陽虚す」し亡津液の為に血を吐し息が途絶えそうになり手足が厥冷して体も寒く踡って臥せり温めてやらないと自ら温まる事が出来ない。
…下厥上竭は不可汗 咽中閉塞で気滯は半夏厚朴湯、肺燥は炙甘草湯、陽気を補うのは四逆湯

8条 諸脈数動に微弱を得る者は汗を発すべからず、汗を発すれば則ち大便難く腹中乾き胃燥し而して煩す、其の形 相象るも根本は源を異にす。

諸脈…寸関尺、浮 大 滑等…に数動を現している場合でも按じて微弱である場合は(寸脉数動尺脈微弱或いは右脉数動左脉微弱の場合もある)発汗させてはならない、この場合微弱は血虚の脈で数、動は陰虚熱を現す、熱を見て之れを発汗させると更に血中の津液を亡ぼし胃中の体液が奪われ大便は出難くなり腹中乾き煩を現す、動数は熱盛の脈で発汗後の大便難は胃実に似ているが此の動数の脈は陰虚に因る者で便難は亡津液に因る者でありよく似ているが其の原因は全く異なっているのである。
…此の場合の動は脈状の動でなくせわしい数、陰虚し数動の脈は不可発汗

9条 脈微而して弱 弱反って関に在り濡反って巓に在り、弦反って上に在り微反って下に在り、弦は陽運と為す、微にして陰寒え上実下虚し意に温を得んと欲す、微弦は虚と為す汗を発すべからず汗を発すれば則ち寒慄し自ら還る能わず。
(不可下9条類文)

面赤く熱状が有るのに脈状は微で按じて拍動は弱で、陽気が最も旺んであるべき関脈が殊に弱、陽気乏しく寸脈は軽按では表熱に反し濡、血虚である、中按すると寸脈は反って弦で尺脉はそれに反し微である、此の場合の寸脈弦は上焦に陽気が偏在し鬱滞を生じている事を現し尺脉の微は下焦に陽気巡らず陽気不足を現している、上焦に陽気偏在する事を陽運と言うが面赤く熱状が有っても下焦に虚寒が在り上実下虚の証で体は寒く温めたがる、下微上弦は下焦虚で発汗を用いてはならない発汗させれば更に陽気を損じ体が冷えて慄え自力で温まって来る事が出来ない。 少陰病  裏虚は不可発汗

10条 咳する者は則ち劇しく数しば涎沫を吐し咽中必ず乾き小便利せず心中飢えて煩し晬時にして発し其の形瘧に似る、寒有りて熱無く虚して寒慄す、咳して汗を発すれば踡して苦満し腹中復た堅し。

下微上弦で胸膈に熱が入り咳を伴う者は胃内停水が有り体表に陽気が乏しく発汗させると陽気を損じ咳は一層劇しくなる、しばしば薄い唾状の痰を吐き熱気を噴くので喉の奥は乾燥して下焦虚し小便は不利し血熱の為に体液を補なおうとして食べたい気持ちはあるが食べられず胸中熱して心煩する此の様な発作が二時間位の間隔で起こり丁度瘧の様だが寒証だけで熱は殆ど無く陽気虚して悪寒し慄える、下微上弦で咳が出る者を発汗させれば陽気を一層失い寒して踡まり胸中満して苦しく腹中にも虚寒が及び腹壁も緊張して堅くなる。  (少陰病)真附湯加五味細辛、甘草乾姜湯

11条 厥脈緊なるは汗を発すべからず(不可下21条に因る)、汗を発すれば則ち声乱れ咽嘶び舌萎し声前むるを得ず。
…不可下21条 辨脈43条参照

脈が厥し緊脈の場合は挟陰傷寒…陰証を挟む太陽傷寒は先に裏寒を救う…であるから悪寒発熱が有っても発汗を用いてはならない発汗させると更に津液を失い血熱し肺熱を増すので肺中乾き音声が途切れてカスレ舌は乾いて萎び声を大きく出せなくなる。
…挟陰傷寒 厥脈(不可下21条p215参照)

12条 諸逆汗を発すれば病微なる者は差え難く劇しき者は言乱れ 目眩する者は死す、命将に全うし難からしむ。

全て逆を犯し陽気を損じたものを重ねて逆して汗を発し陽気を失えば病証の軽い場合は治り難くし病証が劇しい場合は言語が不明瞭になるし目眩し意識がはっきりしない場合は陽気を失った死証で生命を全うさせることは出来なくなる。

13条 咳して小便利し若しくは小便を失する者は汗を発すべからず、汗出でれば則ち四肢厥し逆冷す。

咳が出ると尿意を催し或いは失禁する場合は下焦に冷えがあり脾胃弱く当然陽気乏しいのであるから重ねて発汗を用いてはならない、汗を出させれば陽気を更に失い手足が冷え逆冷する。…四逆湯。始めに甘草乾姜湯 失禁苓姜朮甘湯 咳に苓甘姜味辛夏仁湯

14条 傷寒頭痛し翕翕と発熱し形 中風を象どり常に微汗出自ら嘔する者は之れを下せば益々煩し心中懊惱し飢ゆるが如し、汗を発すれば則ち痙を致し身強ばり以て屈伸し難し、之れを熏ずれば則ち発黄し小便するを得ず、灸(久)すれば則ち咳唾を発す。

傷寒に罹り、頭痛しカッカッと熱が出 中風の様に寒気がして微汗が有り吐き気がする場合寒気頭痛は表証であり翕翕発熱汗出は陽明経熱であり嘔は少陽証で津液が巡らず熱は鬱滞して三陽に亙っており若し三陽の合病ならば小柴胡湯、白虎湯、梔子豉湯、猪苓湯等の行く所であるが之れを下せば胃気を損ない胸膈の熱を増し心煩心中懊惱し胃中空虚の感じになるのは胸膈の熱実によるもので、発汗させれば亡陽亡津液し痙を起こし筋肉硬直し手足の屈伸が出来なくなる、脾腎虚し津液が巡らず血熱をからである、又之れを火熏を加えると血液に熱が加わり血中に熱を増して発黄し小便が出なくなる、血熱に更に火熱が加わるからで、灸法を用いて発汗させれば表気を損じ胸膈に熱が滞り肺痿を起こし咳唾するようになる、何れも胃気巡らないからである。病症は三陽に似ているが下焦に寒が在り脾寒し裏気が滞って外熱劇しいのである。…下焦の寒強ければ甘草乾姜湯(太陽上29条、30条参照) 三陽合病は陽明45条参照、脾寒強く腹痛あれば脾寒膈熱は黄連湯(太陽下44条)

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