傷寒論 辧少陰病脈証并治 第十一
辧少陰病脈証并治 第十一
胃気乏しく腎陽虚し津液巡らず血中の熱
1条 少陰の病為る脈微細 但寐ねんと欲する也。
少陰病の脈は拍動は微で脈の形は細く陽気が乏しく軽度に意識の混濁があり但ウツラウツラ眠りたがるのである。
2条 少陰病 吐せんと欲し吐せずして心煩し但寐ねんと欲し五六日 自利し渇する者は少陰に属する也、虚するが故に水を引き自ら救う、若し小便の色白き者は少陰病の形悉く具わる、小便白き者は下焦虚して寒有り水を制する能わざるを以ての故に色をして白からしむる也。
脈微細の少陰病でムカムカして吐けず胸中煩し但ウツラウツラ眠る病証が五六日続き自下利する場合は太陰と紛らわしいが渇がある場合は腎気虚し体液が巡らせない為に渇を生じているのであり下利は下焦の寒が中焦に及んだもので少陰病に属するのである、此の場合小便の色が白い時は下焦の機能が低下し(陽虚し)体液を調節出来ないのである(尿細管の再吸収が出来ず濃縮されない儘に尿が出ている)此の場合は腎陽虚の少陰病の病証は全て揃ったと言える。
3条 病人の脈陰陽倶に緊 反って汗出ずる者は亡陽也、此れ少陰に属す、法当に咽痛し復って吐利す。
病人の脈が寸口尺中倶に按じて緊の場合は傷寒で無汗の筈であるのに反って汗が出る場合は陽気を亡ぼし津液が巡れなくなり血熱して脱汗しているのであり少陰に転属しているのである、少陰病では陽気が乏しく表の蒸泄が出来ないので肺に熱が滞り当然咽痛を起すであろうし上焦に熱証があるのに肺循環が損なわれて心気虚し裏気が滞れば吐し或いは脾胃虚寒する場合は利を起す、中焦虚寒の病証を現す。
4条 少陰病咳して下利し譫語する者は火気を被り劫せらるる故也、小便必ず難し、強いて少陰を責め汗するを以て也。
脈微細の少陰病で咳が出て下利し譫語する場合は裏寒外熱し「裏寒により津液巡らず表に熱が鬱滞している」熱少なく寒多きを火を用いて無理に発汗させ其の為に津液を亡ぼし血熱を生じ譫語し肺熱して咳し中焦虚寒して下利するのであり血中の津液が補えず必ず小便は出難くなる、此の場合は中焦を補い裏寒を去る、四逆加人参湯を用いる。
5条 少陰病脈細沈数なるは病裏に在りと為す、汗を発すべからず。
少陰病であるから手は冷たく顔色も熱色無く発熱し脈細沈数は陽虚し裏寒外熱を表す、この場合発熱は表邪でなく裏寒に因る外熱であるから陽気が寒邪に追われて表に集まった発熱で表が閉じた為の熱の滞りではないので桂枝麻黄剤で発汗をしてはならない。(真附湯、四逆湯を用い裏寒を除く。脈数は血熱による)。少陰病の発汗は裏証が無い場合は麻黄附子細辛湯による。
少陰21条参照
6条 少陰病脈微なるは汗を発すべからず亡陽する故也、陽已に虚し尺脉弱濇の者は復た之れを下すべからず。
少陰病で発熱が有っても脈が微の時は陽気が虚し熱が滞っているのだから麻黄附子細辛湯で発汗させてはならない、亡陽を致す、又陽気已に衰えて下焦に陽気巡らず尺脉が弱濇を現している場合は脾胃虚し陰陽倶に虚しているのだから不大便が続いていても下法を用いてはならない。(尺脈により裏気を候う)
7条 少陰病脈緊 七八日に至り自下利し脈暴に微 手足反って温かく脈緊反って去る者は解せんと欲すと為す也、煩すと雖も下利必ず自ら愈ゆ。
熱証無く寐ねんと欲し脈緊は亡陽、その病状が七八日続いた頃自下利し脈は急に微に変わった(自ら或いは四逆湯を用い陽気回復)、此れは下焦の寒邪に胃気遮られ滞った為に陽気巡らなくなっていたのであり自下利によって手足反って温かなのは胃気回復して陽気通じ始めたのである、脈の緊が除かれた場合は若し煩の証が現れてもそれは津液が回復するまでの一時的な証で下利は自然に止まり治癒に向かっているのである。
8条 少陰病下利し若しくは利自ら止み悪寒して踡臥し手足温なる者は治すべし。
少陰病で下利し、或いは下利自ら止みは下焦の寒 中焦に及んだのであるが下利止みは胃気回復に向かったのである、陽気乏しく悪寒し踡臥していても手足が温かい場合は確実に陽気は回復してきているのだから治癒させることが出来る。
9条 少陰病 悪寒して踡まり時に自ら煩し衣被を去らんと欲する者は治すべし。
少陰病で陽気が乏しく悪寒がし踡まっているが時に自煩し着物や布団を除きたがる場合は陽気回復の兆で未だ陰陽の調和が取れていないのである、治癒させることが出来る。
10条 少陰中風 脈陽微 陰浮の者は愈えんと欲すと為す。 (傷寒例22条傷寒風寒得)
風は陽邪で少陰は陰経であるから少陰中風は腎陽虚を挟む中風で少陰病の経過中に更に風を被った少陰の風温で例えば桂枝附子湯を与え(浮虚而濇が)寸口脈は微、陰脉の渋が浮に成った場合は風去り陽脈が陰位に現れ腎は陽気を回復し寒邪が除かれ衛気回復の兆であるから治癒に向かったのである。
…太陰2条(太陰中風参照)少陰中風が少陰経脈に風を受けたものならば陽明腑病の余熱の筈である(傷寒例16条)
11条 少陰病解せんと欲する時は子従り寅の上に至る。
少陰病が治癒してくる時刻は夜半11時頃から暁方4時頃にかけ少陰の気が旺する時刻である。
12条 少陰病吐利し手足逆冷せず反って発熱する者は死せず、脈至らざる者は少陰に灸する事七壮す。
少陰病の吐利は下焦の寒が中焦に及んだものであるが手足に逆冷なく反って発熱する場合は停水が除かれて胃気は衰えていないのだから快復できる、若し脈が触れて来ない場合は少陰穴に灸し陽気を引き経気を通じる…気穴、四満、中注或いは少陰の会である関元、元陽の存する気海に7回づつ灸せよ、脈が出ないのは陽竭でなく陰陽の気が伴わないのである。
13条 少陰病八九日一身手足尽く熱する者は熱膀胱に在るを以て必ず血を便する也。
少陰病で八九日を経過し体も手足も、くまなく熱している場合は腎に陽気回復して邪は膀胱に押し戻されたが邪熱膀胱に結し血熱を生じたのであり血を損じて尿中或いは大便で血を下す。…柴胡湯或いは猪苓湯 辨脈43条参照 少腹急結は桃核承気湯
14条 少陰病但厥し汗無く而して強いて之れを発すれば必ず其の血を動ず 未だ何れの道より出ずるかを知らざるも或いは口鼻より或いは目より出ずるは是れ下厥上竭と名づく難治と為す。
少陰病で但手足が冷たいだけで表に熱が有り汗が出ない場合(尺脉は微弱)之れを太陽傷寒として桂枝麻黄を用いたり或いは火を用い無理に発汗させると下焦の寒で津液が巡らない為の無汗であるから血熱を生じ必ず血流を乱し未だ何処から出血するかは判らないが口鼻或いは目から出血する場合を下厥上竭と言って難治である、此れは血中の体液を失い血熱を生じたからで下厥上竭の場合は寒厥で下焦に陽気衰えて津液巡らず上焦に陰気竭きたのであり上に血熱が集まったのである。下焦寒し津液巡らない者を発汗させてはならない。 …麻黄升麻湯(厥陰32条)。
15条 少陰病悪寒し身踡まり而して利し手足逆冷する者は治せず。
少陰病で悪寒があって踡まりその上、下利し手足先から冷え上がって来る場合は胃気尽きたのであり治する事は出来ない。
16条 少陰病吐利躁煩し四逆する者は死す。
少陰病で吐利躁煩は下焦に陽気絶え胃気も衰えたのであり手足先から冷えてくる場合は陽気尽きようとしているのである、死証である。
17条 少陰病下利止み而して頭眩し時々自冒する者は死す。
少陰病で下利していた者が下利が止まり頭がクラクラして時々意識混濁があってボーッとなる場合は胃中に下る物が無くなって下利が止まったのであり頭眩、冒は胃気竭き陰陽巡らなくなったのである、これは死証である。
18条 少陰病 四逆し悪寒して身踡まり脈至らず煩せずして躁する者は死す。
少陰病で四肢が冷えて悪寒が有り身踡まり脈はなかなか打って来ず体は熱がらないのに手足をバタバタさせてもがく場合は陽竭し心臓循環が著るしく低下したもので死証である。…心気の衰え
19条 少陰病六七日 息高き者は死す。
少陰病で呼気が長く吸気が短く息遣いが荒くなった場合は陽気下行せず死証である。
20条 少陰病 脈微細沈但臥せんと欲し汗出で煩せず自ら吐せんと欲す、五六日に至り自利し復って煩躁し臥寐するを得ざる者は死す。
少陰病脈微細沈(濡弱ではない)但臥せんと欲し汗出で煩せず吐せんと欲するは腎の元陽 胃陽衰え亡陽し汗出ず 五六日経過し下利が始まり煩躁し臥寐する能わずは胃気失われ血中の津液を失い血熱したもので死証である。
21条 少陰病始めに之れを得 反って発熱し脈沈の者は麻黄附子細辛湯之れを主どる
…微、細数ではない。少陰5条6条(脈証)参照 太陽中64条(両感)参照
麻黄附子細辛湯の方
麻黄 細辛 附子
右三味水一斗を以て先に麻黄を煮て二升を減じ上沫を去り薬を内れ煮て三升を取り滓を去り温めて一升を服す、日に三服す。
少陰病の表実証である、始めから陰証で発病すれば無熱正気減衰の証を現す筈なのに反って発熱し脈は沈(微、細でない)である場合は風寒を受けて両感し邪気は強くないが陽気乏しく少陰経脈に邪が停滞し表気通ぜず蒸泄出来ず熱が滞る場合で此の場合は温経と発汗同治の法を用いる(裏証は無く先救裏でない)、麻黄附子細辛湯の主治である。
22条 少陰病之れを得て二三日 麻黄附子甘草湯にて微しく汗を発す、二三日にして裏証無きを以ての故に微しく汗を発する也。 金匱水気25条 麻黄附子湯に同じ
少陰病の病証が二三日続き厥逆や吐利など裏証が現れず悪寒し脈沈小寐んと欲すの証だけの時は腎陽は回復してきたが未だ経脈が通じないのである、麻黄附子甘草湯で経脈を温め微に発汗させる温経と発汗同治の法を用いる。
23条 少陰病之れを得て二三日以上心中煩し臥するを得ざるは黄連阿膠湯之れを主どる。 …少陰病の心中煩 陰虚熱の心煩
黄連阿膠湯の方
黄連 黄芩 芍薬 鶏子黄 阿膠
右五味水五升を以て先に三物を煮て二升を取り滓を去り膠を内れし尽くし小しく冷まし鶏子黄を内れ撹して相得しめ温めて七合を服し日に三服す。
少陰病で二三日経過し胸中煩満しじっと臥せっていられない場合は上熱下寒し津液巡らず胸中熱し胃気滞って血熱しているのである、黄連黄〓で胸中の熱を除き芍薬で裏気を通じ鶏子黄 阿膠で(血中のコロイド浸透圧の調整)血を潤す、黄連阿膠湯の主治である。
24条 少陰病 之れを得て一二日 口中和し其の背悪寒する者は之れを灸すべし、附子湯之れを主どる。
…背悪寒 少陰病で胃内停水し胃気塞がれる者、太陽下40条白虎湯と弁別(背微悪寒口中和)
附子湯の方
附子0,4-0,6 茯苓3 人参2 白朮4 芍薬3
右五味水八升を以て煮て三升を取り滓を去り温めて一升を服す、日に三服す。
少陰病で一二日を経過し食欲低下など胃熱の滞りなく口中に苦味や乾燥、渇など異和感なく背悪寒する者は脾寒し胃気乏しく下焦の寒により陽気が巡らないのである、背部太陽経の肺兪、膈兪、少陰の会である関元に灸し附子湯で主治する。…口中和背悪寒で白虎加人参の背悪寒と辨別する
25条 少陰病 身体痛み手足寒え骨節痛み脈沈の者は附子湯之れを主どる。 …少陰病で胃気弱い者 歴節と熱に違い
身体骨節痛は表に血巡らず筋骨の間に熱滞る為であるが少陰病で身体痛み手足寒え骨節痛脈沈は脾寒し胃気塞がれ寒湿に因り蒸泄滞る爇の鬱滞である、附子湯の主治である。
…真附湯に比し寒劇しく胃気塞がれる。
26条 少陰病 下利し膿血を便する者は桃花湯之れを主どる。 金匱下利45条
桃花湯の方
赤石脂16.0甘平酸化第二鉄を含むカオリン収斂肉芽の形成促進 乾姜1 粳米14
右三味水七升を以て米を煮て熟せしめ滓を去り七合に赤石脂末方寸匕を内れ温服す、日に三服す、若し一服し愈ゆれば余は服すなかれ。
少陰下利で手足が冷え粘血を便する場合は胃気弱く脾虚寒して水穀分かたず滑脱し腸壁に鬱血性炎症を起こしたもので桃花湯の主治である。…脾気衰え滑脱して膿血を便す。少陰下利、便色暗淡(薄黒)
27条 少陰病 二三日より四五日に至り腹満し小便利せず下利止まず膿血を便する者は桃花湯之れを主どる。
少陰病で二三日から四五日を経過し腹満し小便不利、下利止まずは下焦の寒、脾に及び脾虚寒して胃気滞り腹満し下焦では水穀分たず滑脱(瀕回下利)して小便不利し腸壁に鬱血性の炎症を起こし粘血を便する、此の場合は桃花湯の主治である。(太陽下30条赤石脂禹余糧湯と五苓散の条参照)
28条 少陰病下痢…炎症性下痢で腹痛を伴う 膿血を便する者は刺すべし。
少陰下痢で粘血を便する場合は滑脱し腸壁に鬱血性炎症を生じ膿血を便しているのである、鍼法を用い経気を通じなければならない。… 少陰26条と病証は同文上2条の補治下利し心下痞鞕(太陽下30条,赤石脂禹余糧湯、五苓散参照)滑脱(脾気胃気倶に虚損したい液を保持できず下利する)
29条 少陰病 吐利し手足厥冷し煩躁し死せんと欲する者は呉茱萸湯之れを主どる。
…少陰16条と病証類似(死せんと欲すは病証)
少陰病吐利煩躁四逆は胃気竭した死証であるが此の場合は胃気塞がれたもので陽明に属し脈沈微細だが関脈は按じて力があり脾寒して脾気結し胃気伸びられない為の手足厥冷で元陽尽きんとするものではない、呉茱萸湯で脾を温め裏気を通じてやれば宜しい、主治薬である。
30条 少陰病下痢 (炎症性下利で腹痛を伴う)咽痛し胸満し心煩する者は猪膚湯之れを主どる。
猪膚湯の方
猪膚 甘寒 (脾を補し不燥、陰を養し不腐 甘潤)豚皮ゼラチン胃酸での炎症
右一味水一斗を以て煮て五升を取り滓を去り白蜜「蜂蜜」一升 白粉五合「米の粉」熬し香ばしきを加え和し相得て分かち温め六服す。白蜜(甘平脾胃剤)白粉(甘平脾胃剤)
少陰病の腹痛下痢は虚熱の鬱血炎症性下利である、咽痛胸満心煩は津液が乏しくなり胸膈に熱が籠り喉にも炎症がある、猪膚湯で血熱を冷まし粘膜を保護する主治薬である。
31条 少陰病二三日 咽痛する者は甘草湯を与うべし、差えざる者は桔梗湯を与う。
甘草湯の方
甘草
右一味水三升を以て煮て一升半を取り滓を去り温めて七合を服す、日に二服す。
桔梗湯の方
桔梗 辛温 甘草
右二味水三升を以て煮て一升を取り滓を去り分かち温め再服す。
少陰病証が二三日続き無熱性で喉が痛む場合は表の蒸泄が乏しく肺に熱があり上気道に発散過度を生じ喉の粘膜に炎症を起こしたのである、甘草湯は粘膜の炎症を除く、若しそれで治らない時は炎症周辺の膿を除き炎症を静める、桔梗湯の主治である。
32条 少陰病 咽中傷れ瘡を生じ言語する能わず声出でざる者は苦酒湯之れを主どる。
苦酒湯の方
半夏 鶏子「一枚黄を去り上苦酒を内れ鶏子殻中に著す」(卵白にリゾチューム)
右二味半夏を内れ苦酒中に著し鶏子殻を以て刀鐶中に置き火上に安じ三沸せしめ滓を去り少々含みて之れを嚥む、差えざれば更に三剤を作す。
無熱の少陰病で咽中が爛れ声が出せず話しが出来ない程痛む場合は細菌が多い粘液を除く為に半夏、粘膜の収斂に苦酒を、消炎に鶏子殻卵白を用いる、苦酒湯の主治である。
33条 少陰病 咽中痛むは半夏散及び湯之れを主どる。
半夏散及び湯の方
半夏 桂枝 甘草 各等分
已上の三味各別に搗き篩い已りて合し之れを治さめ白飲に和し方寸匕を服す、日に三服す、若し散 服する能わざる者は水一升を以て煎ずること七沸し散 両方寸匕「倍量」を内れ更に煎ずること三沸し火より下し小しく冷さしめ少々之れを嚥む。
半夏は細菌の多い粘液を除く為に、甘草は粘膜の炎症を去る為に 桂枝で表を援け胸膈の熱を去る、半夏散及び湯の主治である。(甘草湯…桔梗湯…半夏散…苦酒湯の順である。)
34条 少陰病 下利するは白通湯之れを主どる。
…厥陰42条、金匱吐下34条 下焦に寒有り陽気閉塞された下利 脈微(脈沈而遅)を参照する
白通湯の方
葱白 辛温陰陽を交え通陽 乾姜1.0 附子生乾0.2
右三味水三升を以て煮て一升を取り滓を去り分かち温め再服す。
下焦の寒中焦に及び寒利する時は白通湯の主治である。…寒邪に陽気閉塞された寒性下利
35条 少陰病下利し脈微の者は白通湯を与う、利止まず厥逆し脈無く乾嘔し煩する者は白通加猪胆汁湯之れを主どる、湯を服し脈暴かに出ずる者は死す、微に続く者は生く。
白通加猪胆汁湯の方
葱白 乾姜 附子 人尿 鹹温津液を通ず 猪胆汁 苦寒 津液内竭 血熱
已上三味水三升を以て煮て一升を取り滓を去り膽汁 人尿を内れて和し相得せしめ分かち温め再服す、若し膽無きも亦用うべし。
少陰下利で脈微の時は白通湯を用いる、下利が止まらず手足先が冷え上がり脈が殆ど触れずからえずきし煩熱する場合は体液下脱し陽気上焦に止まり肺に熱の滞りを生じる為に裏気下らず気逆しからえずきするのである、この時は陰(体液)を滋し血熱を清するに猪胆汁、人尿を加え白通加猪胆汁湯の主治である、この時若し俄に脈が強く現れる場合は陽独り旺んで已に陰気が途絶えているのだから救うことは出来ない(陰気竭)、脈微に現れそれが続く場合は陰気救われ病証は徐徐に快復されるのである。(陰陽倶微)
36条 少陰病二三日已まず四五日に至り腹痛し小便利せず四肢沈重し疼痛し自下利する者は此れ水気有りと為す、其の人或いは咳し或いは小便利し或いは下利し或いは嘔する者は真附湯之れを主どる。
…太陽中55条(附子湯少陰24、25条は胃氣虚損、真武湯は腸管水滯)
真附湯の方
茯苓3 芍薬3 生姜3 白朮2 附子0,2-0,3
右五味水八升を以て煮て三升を取り滓を去り温め七合を服す、日に三服す。
後 加減法
若し咳する者は五味半升 細辛 乾姜各一両を加う。
若し小便利する者は茯苓を去る。
若し下利する者は芍薬を去り乾姜二両を加う。(胃寒)
若し嘔する者は附子を去り生姜を加えること前に足し半斤と成す。(胃気逆)
少陰病証が二三日続き治せず其の後四五日目位になり腹痛 小便不利(胃気不通) 四肢沈重(表気不通)し疼痛し自下利する場合は下焦の寒が中焦に及び裏気が通じなくなり水滞を生じているのである、此の場合に病人は或いは咳が有ったり(肺熱)、或いは小便が多く出ていたり、或いは下利が有ったり(下焦に陽気虚)、或いは嘔が有ったりもするが(胃気不下)少陰病で胃内停水の証が有れば何れも真附湯の主治である。
…少陰病で胃内停水を伴う場合で胃気弱く不通と胃気僅かに強い場合をのべてある
37条 少陰病 下利清穀、裏寒外熱し手足厥逆し脈微絶せんと欲し身反って悪寒せず其の人面赤色、或いは腹痛し或いは乾嘔し或いは咽痛し或いは利止み脈出でざる者は通脈四逆湯之れを主どる。
…22条の裏証無(麻黄附子細辛湯)と裏寒外熱(乾姜…通脈四逆湯)を比較(附子の能)
通脈四逆湯の方
甘草 附子 大の者一枚生用 乾姜 三両強人は四両も可
右三味水三升を以て煮て一升二合を取り滓を去り分かち温め再服す、其の脈即ち出ずる者は愈ゆ。
面色赤き者は葱九茎を加う。(陽運)通陽発表
腹中痛む者は葱を去り芍薬二両を加える。(胃気塞がれる)
嘔する者は(加芍薬二両に)生姜二両を加える。芍薬は胃気を通じる(胃気逆)
咽痛する者は芍薬を去り桔梗一両を加える。(胃気乏しく胸膈に熱)
利止み脈出でざる者は桔梗を去り(通脈四逆湯に)人参二両を加える。(脾胃虚損滋体液)
少陰病の通しっ腹で不消化便を下利し、陰陽交わらず下焦に寒が有り津液巡らず外に熱が鬱滞し手足は先の方から冷え上がり脈は微で今にも途絶えそうでそれでいて体には反って悪寒はなく(裏寒外熱裏寒甚だしく陽気表に浮く)顔色は戴陽して赤く(上焦に陽気集まる) 或いは腹痛があったり或いは乾嘔し或いは喉が痛む場合があり或いは下利が止まっても脈が触れて来ない場合は陽気が回復して下利が止まったのではなく出すものが無くなって下利がとまったもので此等の場合には通脈四逆湯の主治である。
38条 少陰病四逆し其の人或いは咳し或いは悸し或いは小便利せず或いは腹中痛み或いは泄利下重する者は四逆散之れを主どる。 …太陽下(p107)36条大柴胡湯参照
四逆散の方
甘草 枳実 柴胡 芍薬 少陰病薬の配合無し、去黄芩で枳実芍薬で胃気を通じる
右四味各拾分を搗き篩い白飲に和し方寸匕を服す、日に三服す。肺寒に五味子乾姜を合す咳する者は五味子 乾姜各伍分を加え并せて下痢を主どる。…陽気乏しく肺から熱気を噴く
悸する者は桂枝伍分を加える。…衛気を援けて表からの発散を援ける、動悸は肺爇心臓負担
小便利せざる者は茯苓伍分を加える。…下焦に水滞
腹中痛む者は附子一枚炮し折「割る、割く」せしめたるを加える。経を温め裏気を通ず
泄利下重する者は先に水五升を以て薤白三升を煮す、煮て三升を取り滓を去り散方寸匕を以て湯中に内れ煮て一升半を取り分かち温めて再服す。…(通陽発表)表裏を通じる
胃気弱く寒を被り脾気に遮られて胃に熱結した少陰裏実の証で(熱厥)胃気結し陽気巡らず表気裏気倶に通ぜず四肢厥逆を現す者である、胸膈に熱入り病人は或いは咳が出或いは動悸し(胸膈熱)或いは小便不利或いは腹中痛(裏気不通)或いは腹痛みチビリチビリ下痢してシブリッ腹の場合は(胃気滞り熱利)胃中に結熱し下に暴発するのである、この場合は四逆散の主治である。
…胃に結熱した少陰証(熱厥)
39条 少陰病下利六七日 咳し而して嘔し渇し心煩し眠るを得ざる者は猪苓湯之れを主どる。
…陽明45条 猪苓湯参照 康治本傷寒論では下利しで六七日は無い
少陰病で下利が六七日続き(脾寒下利)咳は寒邪に表塞がれ肺に熱が入る、その上嘔、渇、心煩し(胸苦しいし)眠るを得ずは胃気逆し血熱心を脅すに因る、この様な病症は腎気強く寒邪膀胱に追われ(熱に化し)表気裏気倶に通じず、太陽の府膀胱に熱が結し血中に湿熱を生じたもので治法は膀胱から尿利で熱を除くのが宜しい(陽明45条、消渇12条)、猪苓湯の主治である。弁脈43条参照(腎の固め強く府におわれ熱を生じる)
40条 少陰病之れを得て二三日 口燥き咽乾く者は急ぎ之れを下せ、大承気湯に宜し (少量づつ注意しながら与える)
少陰病証を現し二三日経過し口中乾燥し喉の奥も乾燥する場合は寒邪に裏気塞がれ胃気実し表気巡らず肺に熱が滞ったのであり、元もと宿食が有り胃気滞り陽気が伸びない為に寒を被り少陰病証を発したもので胃気実し津液を亡す危証である急ぎ大承気湯で下すのが宜しい …血熱を増す。燥屎により裏気塞がれた熱厥で胃気は弱からず脈は沈実。
41条 少陰病 清水を自利し色純青 心下必ず痛み口乾燥する者は急ぎ之れを下せ、大承気湯に宜し。
(用心しながら少量づつ与える)
前条に比べると胃気全く塞がり陽気が下らない為に下焦に陽気が回復しないのであり便に糟粕が混じらず糞便色でなく暗緑色の汚水が下り必ず心下部が堅く張り痛み口が乾燥するのは胃中の停滞物が塞いで下らず腸液が下っているのである、この場合には急いで下しなさい大承気湯が宜しい。…口中乾燥は血熱による 裏気塞がるに因る少陰証 脈は沈遅で渋…胃に塞がりが無く寒証で胃が全く働かないのであれば下利清穀で白通湯…
42条 少陰病六七日 腹脹り不大便の者は急ぎ之れを下せ、大承気湯に宜し。
前2条に続き少陰裏実の証である、少陰病証が現れて(手足が冷え)六七日経過し不大便で腹脹満する場合は燥屎に胃気塞がれ陽気通ぜず寒に遭い少陰仮証を現す者で手足厥冷するが熱厥であり喉の乾燥口中の乾燥、手掌足心に熱あり脈は沈実である、急いで大承気湯で下しなさい。(血熱を生じる)
43条 少陰病 脈沈の者は急ぎ之れを温めよ、四逆湯に宜し。 (5条参照)
(38条,39条,40条、41条、42条)と互文で下焦に寒結するに因って津液巡らず外熱し血熱を生じ口乾燥するも脈は沈で微細無力である時は陽気乏しいのである、急いで温めなければならない、四逆湯が宜しい。(邪臟に入る)寒厥
44条 少陰病 飲食口に入れば則ち吐し心中温温吐せんと欲し復って吐す能わず、始めに之れを得、手足寒え脈弦遅の者は此れ胸中実す下すべからざる也、当に之れを吐すべし、若し膈上寒飲有りて乾嘔する者は吐すべからざる也、急ぎ之れを温めよ、四逆湯に宜し。
胸膈中に熱実した為に胃気伸びず少陰病証を発した者で飲食すると直ぐに吐き胸中はムカムカして吐きそうで吐けない、始めに此の様な病証が現れ次いで手足は冷たく脈が弦遅の場合は膈中に熱が有り胃気に滞りを起こした者で胃の熱実に因るのではないから下してはならない当然吐法を用いなければならない…胃中空虚は梔子湯、実ならば瓜蒂散、若し少陰病で中焦に寒が及び胃中に寒飲が有る為に陽気乏しく膈上冷えて蒸泄出来ずカラエヅキする場合は吐法を用いてはならない(此の場合は脈弦遅でなく沈微細である)急いで四逆湯を用いて温めなさい。
45条 少陰病 下利し脈微渋 嘔し而して汗出で必ず数しば更衣し反って少なき者は当に其の上を温めるに之れを灸すべし。
少陰病で脈微渋は栄衛倶に虚したもので胃気下らず嘔し亡陽し手足厥冷して汗出で脾胃虚寒し下利が止まず大便回数は多いが己に出る者も無く便の量も少なくなっている場合は「通脈四逆加猪胆汁を与え」少陰太陰の腹部の穴に灸をして温めよ。
…寒邪裏に有りその上を温めよ。
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