傷寒論 辨脈法第一
傷寒論 辨脈法第一
脈の違いを弁別する法
1条 問うて曰く、脈に陰陽有りとは何の謂ぞや。答えて曰く、凡そ脈の大浮数動滑はこれを陽と名づくるなり。脈の沈濇弱弦微はこれを陰と名づくるなり。凡そ陰病に陽脈を見す者は生き、陽病に陰脈を見す者は死す。
外邪が外から侵入するとき自然治癒力が活発に発動する時は血流が盛んで表に血液が集まり邪気に対応するから熱の証を現す、則ち表証 熱証を陽証といい陽証に現れる脈状は大浮数動滑などでこれを陽脈という、逆に自然治癒力が低下し活発に対応出来なくなっている時は熱証を現さず病邪は体の中に侵入し之に対応する為血流は内に集まり則ち表の血流が乏しく無熱減衰性(病邪に対応する力が低下)の病証や裏、内の病証を現しこれを陰証といい脈状は沈濇弱弦微などでこれを陰脈という。一般に外証は陰病で有っても陽脈が現れて居る場合は正気回復の兆でこの場合には治癒できるが外証は陽病で陰脈を現して居る場合は裏寒外熱で熱証は仮証で正気離散の兆でありこれは死証である。
2条 問うて曰く、脈して陽結と陰結有る者は何を以てこれを別つか。答えて曰く、その脈浮而して数、能く食し大便せざる者はこれ実と為す、名づけて陽結と曰うなり。十七日を期として当に劇しかるべし。その脈沈而して遅、食する能わず身体重く大便反って鞕きは名づけて陰結と曰うなり。十四日を期として当に劇しかるべし。(裏気の結)
不大便発熱は胃の熱実だけとは限らない、脈浮数は表熱であるがこの場合の不大便は平素脾胃が弱い人が風を被り熱の鬱滯を増し陽明経脈に熱が及び胃気結し裏気滞る不大便である(陽明中風)、胃気を損じたのではないから食することが出来るが大便が出ない、これを陽結と曰う。太陽経に始まり熱の鬱滞を増し十七日目には邪熱は胃に入る、津液を失い一層病状が劇しくなる筈である。脈が沈而遅で大便難、食べたいと思っても食べる事が出来ず体が重だるく裏寒があるのに大便は下利せず反って鞕い場合は陰結と言い寒邪が脾に及び胃気滞ったもので(陽明中寒)この場合は寒を増せば脾気結し津液を損なう事になると陰虚血熱を生じ激しければ膿血を便する。少陰経に始まり過経し十四日目は下焦の寒邪中焦に及び一層陽気を損ない病状は激しくなる筈である。陽結は陽明中風で胃気結するにより、陰結は陽明中寒により脾気結するに因る。脈浮数は不可下
3条 問うて曰く、病みてイ)灑淅悪寒し而してロ)復た発熱する者有るは何か。答えて曰く、ロ)陰脈不足なれば陽往きてこれを従え、イ)陽脈不足なれば陰往きてこれに乗ず。曰く、何をか陽不足と謂う。答えて曰く、仮令えばイ)寸口の脈微なるは名づけて陽不足と曰う、陰気上りて陽中に入れば則ち灑淅悪寒するなり。ロ)曰く何をか陰不足と謂う。答えて曰く、仮令えば尺脉弱なるは名づけて陰不足と曰う、陽気下陥して陰中に入れば則ち発熱するなり。
…中風や傷寒による病症でなく一般に病人が、陰陽が調和しない為に悪寒と発熱を繰り返す病証がありこの場合の脈状は寸口の脉が微であるか(用不足)尺中の脉が弱(陰不足)である…、悪寒の後再び発熱し発熱悪寒を繰り返すのは陰陽が互いにしょうじょう従乗するからで若し寸口の脈が微である場合は表に陽気乏しく蒸泄が滞るので表面温度を保てず陰気が滞る場合はぞくぞく寒気がする、蒸泄出来ず熱が滞り汗が多く出過ぎると(亡陽脱汗)今度は血中の津液を失ない熱が滞って発熱するのである(亡津液)、又尺脉が弱の場合は下焦の陽虚、腎気が乏しいのであり下焦に陽気乏しく陰気巡らず衛気また表に巡らず寒気がするし尿利しげく数くて血中の体液を失って下焦膀胱に熱が入れば今度は血中に湿熱を生じ発熱してくるのである、いずれも表の蒸泄機能が障害されて発熱悪寒を伴う中風や傷寒と異なり陰陽の不調和が惹き起こす病証であるから発汗を重ねて更に陽気を損じたり又津液を損なうようなことをしてはならない。… 何れも中焦の氣が乏しい事が原因で人参湯、桂枝加龍骨牡蠣湯、小建中湯などで中焦を補わねばならない。(平脈47条 寸口諸微亡陽、諸弱発熱 参照)
4条 陽脈浮、陰脈弱の者は則ち血虚す。血虚すれば則ち筋急するなり。
太陽上12条(前条に繋る)陽脈は軽按の脈であり寸脉である、陰脈は重按の脈であり尺脈である、悪寒発熱し陽脈浮陰脈弱は太陽中風桂枝湯の脈であるが筋急するのは血虚し脈浮は蒸泄が滞り熱が欝滞する為の浮脈である、血虚すれば筋潤さず従って筋肉は拘急する、この場合も裏虚表実で発熱し熱去れば悪寒する、陰陽ともに乏しい場合の太陽類似の病証である。…筋急は太陽上30条(芍薬甘草湯 当帰建中湯など)
5条 その脈沈の者は栄気微なり。(3条悪寒発熱に繋る)
悪寒発熱が有るのに脈が沈「微」の場合は裏虚し栄気巡れないためで表証ではない、裏気滞り栄気微弱なれば陽気も亦表に巡れず発熱や悪寒があるのである。…四逆加人参湯 附子湯 筋急なれば芍薬甘草附子湯である…裏気虚し表気巡らず。
6条 その脈浮而して汗出ずること流珠の如き者は衛気衰えるなり。(3条に繋る)
悪寒発熱し玉の汗が滴る様に出るのは脱汗である、表の蒸泄機能が衰微し血中の津液が蒸されて流れ出しているのである。
…桂枝加附子湯 四逆加人参湯…太陽上30条筋急
7条 栄気微なる者は焼針を加えれば則ち血流行らず更に発熱し躁煩するなり。
悪寒発熱して脈沈(5条参照)、栄気微の場合は血中の津液が乏しく血液の流動性が低下し手足が冷え陰虚血熱し発熱するのである、焼針を加えれば更に血熱が加わり熱を増して手足をバタバタさせもだえる様になる。(3条に繋る)
8条 脈あいあい藹藹として車蓋の如き者は名づけて陽結と曰うなり。
盛り上がる様な浮大で強い緊張した脈状の場合にもこれを陽結と曰うのである、津液が巡らず陽気偏勝陰気不足し蒸泄出来なくなり熱気が滞った脈状で衛気の結である。…この場合の陽結は表気の結、衛気の結、蒸泄の滯りで熱の鬱滯
9条 脈るいるい累累として長竿を循ずるが如き者は名づけて陰結と曰うなり。
脈は沈遅で堅い長い竹竿の節を撫でる様な脈状の場合これを陰結と曰う、この場合は衛気乏しく栄気滞り陰気偏勝陽気不足の脈状で栄気の結である。…この場合の陰結は栄気の結で栄血滯り蒸泄が乏しい
10条 脈べつべつ瞥瞥として羮上の肥えたるが如き者は陽気微なり。
ブヨブヨした頼りない力の無い脈状の者は正気が乏しいのである。「拍動力弱い」
11条 脈えいえいとして蜘蛛糸の如き者は陽気衰えるなり。(一説に陰気と曰う)
蜘蛛糸の様に細くベタツク様な脈状の場合は正気が衰微しているのである。
…心臓循環低下(10条11条の陽気は正気を指し陰気は血を指す)
12条 脈綿綿として瀉漆の絶えんとするが如き者はその血を亡ぼすなり。
ほそぼそと垂れている漆が途絶えそうな脈状の場合は出血や血中の津液を亡ぼし血流量が乏しくなっているのである。
「大出血などで血流量が乏しい」陰陽倶衰微の脉
13条 脈の来ること緩にして時に一止し復た来る者は名づけて結と曰う、脈の来ること数にして時に一止し復た来る者は名づけて促と曰う。脈陽盛んなれば則ち促、陰盛んなれば則ち結、これ皆病脈とす。
太陽上22、太陽中4条(促)、太陽下49条(結)
脈の打ち様がゆったりしていて幾つかおいて一つ休み又同じ様に規則的に打ってくる場合は結と曰う、脈の打ち様が早くて幾つかおいて一つ休み、同じ様に規則的に打って来る場合を促と曰う。これらは病邪に衛氣栄氣の調和が乱されたのであって熱が盛んで栄気が及ばない場合は促脈を現し、寒が強く衛気が乏しい場合には結脈を現す、これらはいずれも病む時に現れる脈状である。
…邪気と循環力の関係…
14条 陰陽相搏つは名づけて動と曰う、陽動ずれば則ち汗出で陰動ずれば則ち発熱す(熱状無く)形冷悪寒する者はこれ三焦傷るるなり。…太陽下49条(動)動脉の病証
邪気を受けると生体反応が発動して邪と争うが正(陽)邪(陰)伯仲し衛栄の調和が乱され心気動ずる時に現れる脈を動と曰う、衛気栄気の調和が乱されると発熱するが(衛気榮気の不調和発熱は3条参照)衛気が邪を受け蒸泄が乱された場合は発熱汗出で、津液が巡らないで榮気が乱された場合は汗無く熱が鬱滞し発熱する(熱を増せば陽明の汗)、熱状がなく寒むそうで悪寒し動脈を現す場合は三焦の正気が傷られ(頭尾無くは陽気関上に結して伸びない)心気が乱れている為の動脈である。(関上は寸尺の交わる所、三焦は難経38、生命維持の原動力の源泉で上中下、十二経を運行させる根源)
15条 かく若して数脈関上に見われ上下頭尾無く豆大の如くにして厥厥と動揺する者は名づけて動と曰う。(動は急に同じ、急迫すれば表裏脈関上に相搏つ)
この様に動脈の脈状は関上だけに数脈が現れ寸口尺中は触れず豆大の大きさでクリクリして揺れ動く様な脈状である。
16条 陽脈浮大而して濡、陰脈浮大而して濡、陰脈と陽脈同等の者は名づけて緩と曰うなり。
…平脈27条 陰気と陽気が同位になり裏気と表気、衛気と栄気が何れも強からず弱からず均衡し合った脈状(陰陽がつり合った脈状)。緩脉の形状
寸脈も尺脉も同様に軽按の脈は浮大で柔らかい濡の脈状の場合に陽脉浮大は風熱を表し濡脈は栄気弱を表す、陰脈浮大は下焦陰位に陽脉が現れ陰虚陽盛し陽気浮上を表わし濡脈は脾気渋り津液が乏しく亡血を表す、陰脈陽脈の打ち方が浮大而濡何れも同等であるのは陽気衰え陰気も弱まり互いに行きて将せず陰陽同等に平衡状態を表すこれを緩脉と言う、中風で汗出し榮弱衛強を為して榮衛和した状態、脾胃虚の傷寒で寒に胃氣塞がれ衛気將しない太陰病、脾気虚し胃気塞がれた陽明類証の穀疸に見られる。…太陽中風、太陰病、黄疸1条に見られる(緩脈は太陽上2条p52、12条p54、平脉27p27、35条p29(胃氣の余)、41条p31(胃氣の実)、陽明10条p115(太陰の脉)、太陰6条p142、 黄疸1条p96)
17条 脈浮而して緊の者は名づけて弦と曰うなり、弦なる者は状弓弦の如くにしてこれを按じて移らざるなり。脈緊なる者は転索の如くにして常無きなり。
ピンと張って緊張している脈を弦と曰う、弦脈というのは弓の弦のようにピンと張っていて按じても逃げたり移ったりしない脈状をいうのである。緊脈というのは重按すると転がした綱の様に堅くてピンと張った感じがなくゴロゴロして形状に定まりがない脈状である、弦脈も緊脈も血流の滞りを表しているが弦脈は血流の急迫で緊脈は血流の結である。浮脈は陽虚緊脈は裏寒、表気昇せず裏気降せざる脈状が弦脈で、緊脉に浮を加う。
18条 脈弦而して大、弦は則ち減と為し大は則ち芤と為す、減は則ち寒と為し芤は則ち虚と為す、寒虚相搏つはこれを名づけて革と為す。婦人は則ち半産漏下し男子は則ち亡血失精す。金匱 虚労12条 驚悸8条 婦人雑病11条
脈が弦で大の場合弦は陽気の減で下焦に陽気巡らず陰気が浮上したものであり大は按じて中空、芤である、陽気の減衰は胃気の滞り則ち脾寒に因る芤は血虚則ち脾気の虚、大は血熱である、弦而大で按じて芤の脈を革と曰う。胃気塞がれ脾気虚し血虚し栄衛倶に乏しく虚熱を増し革脈を表わす場合は婦人ならば流産し血熱の為に子宮出血が続くし男子ならば亡血し腎気衰えて精液漏を起こすのである。(腎は精を蔵する)
19条 問うて曰く、病戦し而して汗出で因ってげ解を得る者有るは何ぞや。答えて曰く脈浮而して緊、これを按じて反って芤、これ本と虚すると為す。故に当に戦して汗出ずべきなり。その人本と虚し是の故に戦を発す。脈浮の故を以て当に汗出でて解すべきなり。若し脈浮而して数、これを按じて芤ならざるはこの人本と虚ならず、若し自ら解せんと欲せば但汗出ずるのみ、戦を発せざるなり。(裏虚と裏和)
傷寒で発汗させたとき、震えがきて汗が出て治る場合があるのはその時の脈状は浮緊で発汗すべき脈状の様であるが中按するとその緊は中空で芤脈である、これはもともと裏虚し営血が乏しい者が傷寒を病み表実を起こしたもので汗を発した場合栄衛乏しい為に発汗が徹せず寒が除かれないからで裏気回復し津液が充ちれば悪寒戦慄がおこり次いで衛氣が回復し充分な汗が出て表が解するのである、裏虚があった為に発汗で戦慄を発するのであるが脈が浮であると言う事は表が邪を受けていると言う事で発汗を経なければ治癒されないのである。若し脈浮数で緊按じても充実した大脈であるばあいは裏虚が無く裏和表病で表邪が除かれないのであるから発汗させ悪寒戦慄をともなわず但汗がでるだけで解するのである。…裏虚を補うには人参湯、小建中湯を与え後発汗させるのがよい(先救裏)。寒に傷られ裏虚する時は先ず津液が充実し戦し汗出でて解す。(緊は寒)
20条 問うて曰く、病に戦せず而して汗出でて解する者有るは何ぞや。答えて曰く、脈大而して浮数(緊でなく弱脉)、故に戦せず汗出で而して解するを知るなり。
脈大而浮数で発熱し汗出戰せずに解する場合、大而浮数緊でなく弱脉浮数は風熱が表に在り、太陽中風で衛気が損なわれ蒸泄出来ないで表に熱が滞るもので前条と異なり邪は寒でなく風である、桂枝湯で陽気を援けてやれば悪寒戦慄は無く発汗して治癒する。
21条 問うて曰く、病に戦せず汗出でず而して解する者有るは何ぞや。答えて曰くその脈自ら微なり、これ曾て発汗し若しくは吐し若しくは下し若しくは亡血を経、内に津液無きを以てこれは陰陽自和すれば必ず自ら愈ゆ、故に戦せず汗出でず而して解するなり。
悪寒戦慄すること無く汗が出ないでそれでいて治癒する場合が有る、この時は脈状は当初から微の場合でそれ以前に発汗させたり或いは吐かせたり或いは下したり或いは火法を加えて亡血させ体内の津液を失ったため病邪は既に除かれているのに蒸泄が滞り熱が鬱滞しているのであるから栄衛の調和が取れれば自然に治癒するのである、脉微の故に陰陽倶に乏しく不調和による発熱であることが分かる。
22条 問うて曰く、傷寒三日脈浮数而して微、病人身涼和する者は何ぞや。答えて曰くこれ解せんと欲すと為すなり、解するに夜半を以てす、脈浮而して解する者はしゅうぜん濈然と汗出ずるなり、脈数而して解する者は必ず能く食するなり、脈微而して解する者は必ず大いに汗出ずるなり。
傷寒三日は病裏に入る時期で大脈を表せば(陽明脉)伝えたのであるが今脈は浮数ではあるが微が現れ病人は熱感が取れてきた場合は邪熱は薄らぎ正気の回復は充分でないが治癒に向かっているのである、陽気を生じる夜半になると治癒する、脈浮が除かれない儘治癒する場合は表邪が残っているのだから陽気が回復してくるとジットリ汗ばんできて治癒するのである、脈浮は除かれ数が残って治癒する場合、数は(府病)胃虚し榮気滞り血熱するのである、脾胃の機能が回復するにつれて体液を補う為よく食べる様になり栄衛回復し治癒する、脈微が残り治癒する場合は裏寒去らず(少陰病)、腎陽の不足で津液が巡らないための裏寒外熱であるから腎陽回復し津液が満ちてくると大いに汗が出て(衛虚)治癒するのである、…陽気回復し少陰病から太陽病に移行して治癒する。
23条 問うて曰く、病を脈し愈ゆると未だ愈えざる者を知らんと欲せば何を以てこれを別つか。答えて曰く、寸口 関上 尺中三処の大小 浮沈 遅数同等なれば寒熱解せざる者有りと雖もこれ陰陽和平を為す、劇しと雖も当に愈ゆべし。
病を脈し寸口 関上 尺中の大小 浮沈 遅数(打ち方の勢)が同等で不調和な処がなければすでに病邪は除かれ栄衛表裏の気は調和が得られ回復に向かっているのである、寒熱の病証が残っていて病証は未だ激しくても正気は回復し間もなく愈ゆる筈である。
24条 立夏に洪大の脈を得るはこれその本位にしてその人病みて身体疼重を苦しむ者は須らくその汗を発すべし、若し明日身疼まず重からざる者は発汗を須いず、若し汗濈濈と自ら出ずる者は明日便ち解せん。何の故にこれを言う。立夏に洪大の脈を得るは是れその時脈故に然ら使むるなり。四時これに倣え。
平素なれば洪大の脈は三陽合病の脈であるが立夏の侯「五月六月」の洪大の脈は病脈ではなくその季節の脈である、病人が身体疼み重だるさを苦しむ場合は表証を伴っているのであるから発汗法を用いるべきである、若し翌日になって身体疼も重だるさもなければ脈が洪大であっても発汗を用いてはならない、若し身疼重が残っていても自然に汗がジットリ出ている場合は翌日には治癒するであろう、それは洪大の脈は立夏の時脈であって病脈ではないから病証に随って発汗を用い、汗を得れば洪大の脈は残っていても治癒するのである、四季それぞれに時脈があるのでこの方法に倣いなさい。
25条 問うて曰く、凡そ病何時得て何時愈ゆるかを知らんと欲す。答えて曰く、仮令ば夜半に病を得れば、明日日中に愈え、日中に病を得れば夜半に愈ゆ。何の故に之れを言う。日中に病を得て夜半に愈ゆる者は陽は陰を得れば則ち解するを以てなり、夜半に病を得て明日日中に愈ゆる者は陰は陽を得れば則ち解するを以てなり。
日中に病を得て夜半に愈える場合は体の陽気が盛んで陰気が乏しく調和が乱されて発する病だから夜半の陰気が盛んな時間には体の陰気が援けられて陰陽の調和が得られ愈えるのである、反対に夜半に得た病なら体の陽気が乏しいために病むのだから日中の陽気が盛んな時間には体の陽気が援けられ陰陽の調和が得られ愈えるのである、病は体の陰陽の不調和が因で起こるのである。
26条 寸口の脈浮なるは表に在りと為す、沈なるは裏に在りと為す、数なるは府に在りと為す、遅なるは蔵に在りと為す、仮令ば脈遅なるはこれ蔵に在りと為すなり。
撓骨の脈が浮の場合は病は表に在るのである、沈の場合は病は裏に在る、浮は陽位の脈であり沈は陰位の脈である、数は熱脈だから陽病である、遅脈は寒脈で無熱性の陰病に現れる、仮令えば浮数の脈は正気盛んの実の脈で、沈遅である場合は正気不足で虚とする。…脈浮、沈、数、遅の病証(病の深浅、寒熱を辨ずる)
27条 趺陽の脈浮而してしょく濇、少陰脈は経の如くなり、その病脾に在り法当に下利すべし。何を以てか之を知る。若し脈浮大の者は気実し血虚するなり、今趺陽の脈浮而して濇の故に脾気不足し胃気虚するを知るなり、少陰の脈は弦而して浮纔かに見わる、これ調脈と為す故に経の如しと称するなり、若し反って滑而して数なる者は故に当に屎膿すべきを知るなり。
…下利の病理(衝陽脈と衝陰脈の読み方)
趺陽「衝陽」の脈は脾胃の気 裏気を侯う、遅而して来ること緩は平脈である(29条参照)、少陰脈「太谿」は腎気 水気を侯う、弦而して浮纔かに見わる則ち中按で弦脈で軽按で微かに見われる脈が平脈である(本条)、趺陽の脈が浮(陽気の浮)而して濇(栄気の濇)、少陰脈が平の場合は腎気は平、脾気の虚に病因が在り水穀分かたず当然下利する筈である、それは若し脈が浮でも大の場合は胃気盛んで実し脾気制せられる為に脾(血)虚し胃中乾く、今の場合は趺陽の脈浮而濇で大ではないから胃気虚し脾気渋り水穀分かてず下利することが判る(人参湯)、少陰脈は平脈であるから下利に因る下焦の陰虚は無いがこれが若し少陰脈滑数ならば下焦に陰虚血熱を生じたのであるから膿血便を下利する筈である、此の場合は桃花湯の主治である。
28条 寸口の脈浮而して緊、浮は則ち風と為し緊は則ち寒と為す、風は則ち衛を傷り寒は則ち栄を傷る、栄衛倶に病むは骨節煩疼す、當にその汗を発すべきなり。
撓骨の脈が軽按して浮、重按して緊の時、浮は風則ち表の蒸泄機能が障害されたことを表し緊は寒邪が営血の循環を阻害し血脈に滞りを生じていることを表している、太陽経脈と少陰経脈が倶に病み栄衛滞る時は関節が熱をもち疼き痛む、この時は発汗の法を用いるべきである。(麻黄湯の主治)
29条 趺陽の脈遅而して緩なるは胃気経の如くなり、イ)趺陽の脈浮而して数なるは浮は則ち胃を傷り数は則ち脾を動ず、これ本の病に非ずして医特に之を下して為す所なり、ロ)栄衛内陥しその数は先ず微なるに脈反って但浮なるはその人必ず大便鞕く気噫し而して除く。何を以てか之れを言う。本と数脈は脾を動ず、数先ず微なるを以ての故に脾気治まらず大便鞕く気噫し而して除くを知る、ハ)今脈反って浮なるはその数微に改まり邪気獨り留まる、心中則ち飢え邪熱は穀を殺せず潮熱して渇を発す、ニ)数脈は当に遅緩なるべし、脈は前後に因り度数法の如ければ病者則ち飢ゆ、数脈時ならざれば則ち悪瘡を生ずるなり。
(病の経過による脈の変化)
誤治による壊証の脈で病症との相関を解説したもので、趺陽の脈は遅而緩が平脈であるが、イ)趺陽の脈が浮で数の場合、浮は実して熱実の場合と胃氣を損じた虚脉で陽気散の場合とがあるがこの場合は胃気の虚損を表し数は胃熱が強く脾の陰が乱されていることを表す、胃気虚損し胃熱が強くて脾気を乱すと言うのは脾胃虚した本来の病の形では無く表熱裏虚の不大便を誤治により下した為の壊証で邪熱を内陥せしめてそうなったのである、ロ)脾胃虚し栄衛が伸びなくなり数の脈は先に微になっているのに脉は沈まず浮いて按じて虚の脉が依然として続いている場合その病人は必ず大便が硬くゲップが出て胃気の滞りが除かれる。それは元々胃の邪熱で脾気を損なっているので数脉が先に微に変わり強い邪熱は静まったが未だ遅脉(脾の陰脈)が現れてないので脾気は回復しておらず胃中は乾いて大便は鞕く、滞る胃気はゲップが出て除かれるのである、ハ)脾気衰微し反って実した浮脉が続いている場合数が微に改まったのは邪熱は去ったが邪気だけは未だ胃に留まっていることを表し裏気回復せず血中に体液が補えないので胃は栄養を補おうとして胃液が分泌し空腹感はあるがそれは邪熱によるもので正気によるものではないから消化することが出来ずに宿食を生じ潮熱し喉の渇きが出てくる、ニ)脾胃の機能が回復し食欲が出てきたのであれば脈は数から微ではなく遅で緩になる筈で脈が病の経過につれて法則どおりに推移する場合にはやがて病は愈え脾胃の機能は回復しよく食べられる様になる、数脈が一向に変わらなければ陰虚して邪熱は鬱滞し悪瘡を生じるのである。
30条 師曰く、病人脈微而して濇なる者はこれ医のために病む所なり、大いにその汗を発し又数しば大いに之を下しその人亡血す、病当に悪寒し後乃わち発熱し休止する時なかるべし、夏月は熱盛んなるに複衣を著せんと欲し冬月は寒盛んなるにその身を裸せんと欲す、然る所以の者は陽微なれば則ち悪寒し陰弱なれば則ち発熱す、これ医その汗を発し陽気をして微ならしめ又大いに之を下し陰気をして弱ならしむ、五月の時は陽気表に在り胃中虚冷す、陽気内に微なるを以て冷に勝つ能わず故に複衣を著せんと欲す、十一月の時は陽気裏に在り胃中煩熱す、陰気内に弱なるを以て熱に勝つ能わず、故にその身を裸せんと欲す、又陰脈遅濇の故に血亡するを知るなり。
病人の脈が軽按で微重按の脈が濇であるのに発熱するのは治法を誤まり壊病になったのである、則ち大いに発汗させて治せず今度は度々大いに下した為に脾胃を損じ表裏倶に虚したもので病証は悪寒がしその後で発熱し休む時がないであろう、…厥陰の陰陽勝復… 夏暑い季節には気温が高いのに重ね着したがり冬の季節には寒気が強いのに裸になろうとする、それは衛気が乏しければ悪寒し栄気を失えば熱が鬱滞して発熱するからでこれは発汗の過剰で表の衛気を損ない又大下によって脾胃を損なって栄気を乏しくさせたのである、五月春暖の季節は陽気は表に集まり裏気は乏しく陰気虚するので渇し冷飲して更に胃を虚寒せしめ陽気が乏しいので一寸した外気の変化に対応出来ず陽気を損ねて寒がるのである、十一月寒冷の季節には陽気は裏に移行し表に熱気が滞り脾気衰えているので津液補えず胃中に熱が滞り熱の鬱滞を増して暑がるのである、尚重按した時の脈が遅で濇であることから脾胃虚し血中の津液を滅ぼしていることがわかるのである。
31条 脈浮而して大、心下反って鞕く熱有り蔵に属する者は之れを攻めるに汗を発せしめず、府に属する者は溲をして数ならしめず、溲数なるは則ち大便鞕く汗多きは則ち熱愈さり汗少なきは則ち便難たし、脈遅なるは尚未だ攻むべからず。
脈が浮而大で心下が鞕く熱が有り脈に遅がある場合は脾寒し胃気実し津液が巡らないのであるから発汗させてはならない、まず裏を通じねばならない、脈が浮而大で数、心下鞕い場合は胃に熱が入ったもので小便が少なくても利尿の法を用いてはならない、尿利が増せばさらに津液を奪われ胃中乾き大便が鞕くなりこの場合汗が多いものは胃熱が強く津液を失い熱は一層激しくなる、汗が余り多く無い場合は胃の熱実も弱く便が唯出にくいだけである、脈遅の間は(水滞あり胃気阻まれ)陽明証を現しても未だ胃の熱実には至ってないのだから承気湯で下してはならない。(胃気を損じる)…陽明p120(31条)
32条 脈浮而して洪、身汗油の如く、喘し而して休まず水漿下らず体形仁せず乍まち静まり乍まち乱れるはこれ命絶となすなり。
脈が浮で押し寄せるような勢いの打ち方で根が無く体中油汗が吹き出て片時も休まずゼーゼーし水物も喉を通さず意識が無く静かになったかとおもうとたちまち悶え出すのは表気も胃気も肺気も途絶え最早寿命は尽きたのである。
33条 又未だ何れの蔵その災いを受くるかを知らず、若し汗出で髪潤い喘休まざる者はこれ肺先に絶すと為すなり。
又未だどの蔵が先に命絶の災いを受けるか分らない時、若し汗で髪がべっとり潤い絶えずゼーゼーする者は肺気が先ず途絶えたとするのである。…熱鬱滞による汗…
34条 陽反って独り留まり形体煙薫の如くにして直視し頭を揺がすはこれ心絶するなり。
陰気が絶えて陽気だけが残り体の潤いが無く煙りでくすべた様で眼球が動かず、筋肉弱まり頭を支えられずに頭が揺らぐのは心絶とするのである。
35条 脣吻反り青く四肢漐習する者はこれ肝絶と為すなり。
唇が捲れて青く手足が萎びてチリチリ攣きつれるものは肝絶とするのである。…筋は肝に属す栄養が巡らず乾いて攣急する。
36条 環口黧黒にして柔汗し発黄する者はこれ脾絶するなり。
口の周りが黄黒くジットリ汗ばみ発黄する場合には脾絶である、体液が供給されなくなり血熱を生じるのである。
37条 溲便遺失し狂言、目反、直視する者はこれ腎絶と為すなり。
大小便を漏らし訳の分らない事を口走り黒目が吊り上がり眼球が動かないときはこれを腎絶とするのである、下の締まりが緩み膀胱に水を蓄えられず筋肉は乾いて攣急する。
38条 又未だ何れの蔵の陰陽前きに絶するかを知らず、若し陽気前きに絶し陰気後に竭きる者はその人死して身色必ず青し、陰気前きに絶し陽気後に竭きる者はその人死して身色必ず赤く腋下温かく心下熱するなり。
陽気の本は胃気 陰気の本は腎気
39条 寸口の脈浮大なるに而して医反って之れを下すは此れ大逆と為す、浮は則ち血無く大は則ち寒と為す、寒と気相搏つは則ち腸鳴を為す、医乃わち知らず而して反って冷水を飲ませ汗を大いに出ださしむ、水は寒気を得て冷え必ず相搏ちその人即ち噎す。不可下15条 可下5条参照
寸口の脈が浮大「虚」の不大便は裏虚表熱で不大便は胃気虚して結するに因る不大便であるのに之れを下すのは(胃気虚と表熱を下し)逆を重ねる大逆である、この場合浮脈は表証ではなく裏寒し血乏しく表に熱が浮かんだ浮虚の脈で、大脈は裏寒外熱の大脈だから芤である(栄衛巡らず表熱滞る)、これを下した為に一層胃氣衰え裏寒により胃氣下らず腸管に水滞を生じて腸鳴を起こすのであるが…茯苓四逆湯、此の理を弁えずに転失気「胃熱のため燥屎を為しそれが動く時の腸鳴」と誤り胃氣虚しているのに胃中燥くとして逆に冷水を飲ませ大いに汗を出させた為にこの場合は(亡陽の汗)更に陽気を損じ胃気を虚せしめ停水に下焦の寒が加わり水の冷と裏寒が相俟ち胃中虚冷し食事を入れると噎せるようになる。大逆(辨脉39条、可汗5条、不可下15条) 逆(不可下17条、太陽中14条、63条)小逆(太陽中97条)
40条 趺陽の脈浮、浮は則ち虚と為す、浮と虚相搏つ故に気をして噎せしむ、胃気虚竭と言うなり。脈滑なるは則ち噎を為す、此れ医の咎めと為す、虚するを実に取りて責め守は空し血を迫す、脈浮にして鼻中燥く者は必ず衄するなり。
…金匱p1(1条)
趺陽の脈は浮で弱や渋の虚脉を現す、これは胃氣虚衰し裏気滞り陽気浮かんだもので陰気強く胃気虚衰すれば胃氣下るを得ず逆して喉が噎ぶのである、これを胃気虚竭(胃気が竭きた)と言うのである。趺陽の脈が滑の時は胃気塞がれ胃熱を増したもので胃気逆してシャックリがでる、これは誤治により胃気を虚せしめたもので胃虚による不大便を胃実と間違え下した為に守は虚極まり(守は胃、陽気、衛気、空は逸脱し虚極まる即ち衛気逸脱し虚極まる)血は(脾、榮気を指す)滞る熱気を被り血中に熱を増すのである。趺陽の脈が浮いて滑、鼻中燥く場合は裏虚外熱し体表に滞る熱が上衝し上気道から熱気を噴いているのであるから鼻中乾き血熱の為に鼻血が出るのである。
41条 諸脈浮数なるは当に発熱し而して灑淅悪寒すべし(辨脉48条)、若し痛む処有り飲食常の如き者は畜積して膿を有するなり。
三部の脈に浮数が現れている時は浮は風、数は熱の脉であるから衛気を損じて発熱しその上ザワザワ悪寒がする筈である、若しどこか痛む箇所が有り食事は普通どおりに摂れる場合は裏は和しているのであるから表の皮毛 筋肉 肌肉いずれか痛む個所に熱結し膿を生じ栄衛に滞りを生じているのである。則ち膿廱の脈である。
…灑淅悪寒は辨脈3条、48条、瘡廱1条、 諸脉は寸関尺、大滑などすべての脉
42条 脈浮而して遅、「(イ)面熱し赤くして戦愓する者は六七日当に汗出で而して解すべし、」「(ロ)反って発熱する者は差ゆること遅し、遅は陽無しと為す、汗を作す能わずその身必ず痒きなり」
(栄衛ともに虚し汗を得ず熱の鬱滯を増し痒を為す)
脈浮は表邪を表し脈遅は裏寒を表す、(イ)脈が浮而遅で顔がほてって赤くブルブル震える場合は陽位に陽気が現れており戰愓は陰気勝り正邪分争の為であるから正気未だ衰えず六七日して胃気が回復すれば陽気を増し汗が出て治癒する「この場合の脈遅は裏寒を表し陽気不足で同じ面赤でも桂麻各半湯(浮緊で微に緩)の熱気の有余とは異なる陽気乏しく陽位の顔だけに陽気が集まったのである」 (人参湯若しくは四逆湯)ところが(ロ)汗が出た後反って発熱する場合の(裏寒外熱)遅脈は元々胃気が乏しく裏気滞る為で脾気を巡らすことが出来ず汗出栄衛倶に更に虚し熱を増したもので治癒に手間取る、此の場合は栄気巡らず汗を出す事ができないので熱は鬱滞を増し皮膚に痒みを生じる。( 亡陽は誤治に因る陽虚で無陽は元々の胃気不足、イ)の脉遅は裏寒、ロ)の脉遅は無陽で脾気滞る、その違いを理解すべし、)「(ロ)反って発熱する者は差ゆること遅し、」遅は陽無しと為す、汗を作す能わずその身必ず痒きなり。(栄気巡れず汗を得ず熱欝滞し痒を為す)
43条 寸口の脈陰陽倶に緊なる者は法当に清邪上焦に中たり濁邪下焦に中たる、イ)清邪上に中たるを名づけて潔と曰うなり、ロ)濁邪下に中たるを名づけて渾と曰うなり、(陰 邪に中てらるれば必ず内慄するなり、表気微にして虚し裏気守らざる故に邪をして陰に中て使むるなり)、イ´)陽 邪に中てらるれば必ず発熱し頭痛し項強ばり頚攣れ腰痛み脛酸す、陽 霧露の気に中てられて為す所故に清邪上に中たると曰う、ロ´)濁邪下に中たれば陰気は慄を為す、足膝逆冷し便溺妄出す、表気微にして虚し裏気微にして急し三焦相溷じ内外通ぜず、ロ´-1)上焦に怫鬱すれば蔵気相薫じ口爛れ食断するなり、ロ´-2)中焦治まらざれば胃気上衝して脾気転ぜず胃中濁を為し栄衛通ぜず血凝して流れず、ロ´2-A)若し衛気前に通ずる者は小便赤黄し熱と相搏つによりて熱は経絡に遊び蔵府に出入せしむるを為し熱気の過ぐる所則ち膿廱を為す、ロ´2-B)若し陰気前に通ずる者、陽気の厥微なるは陰は客気をして内に入ら使むる所なく嚔して之れを出だす、声むせび咽び咽塞がる、ロ´2-C)寒厥相逐うは熱を為し擁する所血凝し自ら下ること状豚肝の如し、ロ´2D)陰陽倶に厥し脾気孤弱すれば五液注下し下焦闔せざれば清便下重し便数にして難からしめ臍は築湫と痛む、命将さに全うし難し。
太陽(熱証)少陰(寒証)両証の現れるを両感という。撓骨の脈陰陽倶に緊「重按して寸尺倶に緊」の場合は霧露の冷気が太陽経を損ない寒気や湿が少陰経を傷り栄衛を損ねているのである、イ)清邪則ち冷気が上焦(太陽経)に中り蒸泄を損ねたものを潔と曰い ロ)濁邪則ち寒や湿が下焦腎(少陰経)に中たり体液循環が阻害されたものを渾と曰う、衛気が乏しく栄気も弱く抵抗力が衰えている為に太陽経だけでなく少陰経にも寒邪が中たるのであるが下焦腎に寒邪が中たれば下焦に腎水が停滞し陽気が滞る為に体の内側から寒気がして総毛立つのである、イ’)太陽経が邪に中てられ病む時は必ず発熱し頭痛項強頸攣腰痛脛酸の証が現れる、これは太陽経の蒸泄機能が霧露の冷気に障害され熱が鬱するためで清邪が上に中たると曰うのである、ロ’)濁邪が下焦に中たり少陰経が阻害されると体の内側からの寒気でおぞ震い足や膝が足先から冷え上がり大小便は締まり無くやたらと漏らすなどの証が現れる、…衛気弱く両感の傷寒…表の蒸泄機能は衰微し裏気は衰えて営血急迫し上中下焦の調和は乱れ表と裏 経絡と蔵府、内と外の関連は途絶えて栄衛は巡らなくなる、ロ’1)かくして若し上焦に熱の鬱滞が甚だしければ肺気の低下による熱鬱と心熱とが合わさり一層血熱を増し口は爛れて食事が摂れなくなる、ロ’2)若し下焦の寒が中焦に及んで機能を失うと胃気は降せず上衝し脾胃は陰陽交わらず消化吸収が出来なくなり不消化物が胃に停滞し腹満腹痛下利腸鳴呑酸ゲップなどの証を現し栄衛は流れなくなり血液は体液を失って粘稠を増して流動性が低下する、…桂枝茯苓丸… ロ’2A)若し陽気だけが通じ陰気を伴わなければ熱が鬱滞するので小便は赤黄に濁り衛気は邪熱を追い出そうとして争うが津液が伴わないので追い出す事が出来ず邪熱は鬱滞し経絡と蔵府の間を出入りし熱が多く集まった所では廱膿となる、ロ’2B)下焦の寒邪が弱く腎気だけが通じている場合は陽気の厥が微であるときは陰は充実の蔵で邪気は内に入れないが陽気は弱く蒸泄して出すことは出来ないのでクシャミして邪気を追い出すのである、それで声がむせんだり咽が塞がったりする、ロ’2C)陽の厥が甚だしく邪気を追いはらえない時は膀胱に邪熱を生じ血中に湿熱を抱え込み血は凝滞し血熱を増して自然に下血するがその血は凝固して豚肝状のドロドロした血液である。…桂枝茯苓丸、血不下は桃核承気… ロ’2D)若し胃気腎気倶に衰微し「胃腎途絶え」脾気だけが衰えて孤り残るときは五味の栄養は吸収出来ずその儘下ってしまい下焦は機能麻痺して締まりがなくなっているのでこれを止める事ができず不消化便の儘しぶり腹になり便はしげく出難く下焦に血流は鬱滞し臍の周りがシクシク押さえ付けられる様に痛む、こうなってはとても命を全うすることは出来ないのである。
…不可下21条 (太陽病とは規定していない、太陽と少陰兩証を現す両感である)
44条 脈陰陽倶に緊の者にして口中より気出だし唇口乾燥し踡臥し足冷し鼻中涕出で舌上胎滑なるは妄りに治するなかれ、七日已来に到りその人微に発熱し手足温かなる者は此れ解せんと欲すと為す、或いは八日已上に到り反って大いに発熱する者は此れ難治と為す、もし悪寒する者は必ず嘔せんと欲するなり、腹内痛む者は必ず利せんと欲するなり。…前条と関連
撓骨の脈が寸口尺中倶に緊で、口から熱気を吐き唇口乾燥し…肺熱 寒気がして身を丸く屈めて臥し足が冷え水鼻が出舌苔は水っぽく滑らかな場合は…裏寒…裏寒を挟む傷寒で下焦の寒が中焦に及び元陽は衰微し(下焦の気を元陰元陽と言う)津液が巡らず表熱し肺に熱が鬱し熱気を吐いているのである、表の蒸泄と腎の体液循環機能が倶に障害されているのであるから軽率な治を施してはならない(四逆湯)、この様な病状が七日程続き微し発熱して手足が温まってくる場合は陽気回復し治癒に向かっているのである、八日已上経ち反って大発熱する場合は眞寒仮熱で裏寒甚だしく体液が巡らなくなった為に熱が鬱滞したもので元陽離散の証であるから治し難い、若し手足温にして悪寒する場合には胃気の回復が未だ弱く裏気滞るので上逆を現すが吐に至らず但吐き気がするだけである、手足温にして腹中が痛む場合はやはり裏気の回復が充分でない為で下利をもよおすが下利には至らない。
…不可下22条
45条 脈陰陽倶に緊にして吐利に至るは其の脈独り解せざるも緊去りて安きに入る、此れ解せんと欲すと為す、若し脈は遅に六七日に到り食を欲せざるは此れ晩発と為す、水停まる故なり未だ解せずと為す、食自ら可なる者は解せんと欲すと為す。
…前条と関連
脈が陰陽倶に緊、挟陰の傷寒で胃気の衰えが左程でなく吐利を起こし得る場合は胃気が回復してきた兆で脈は依然緊が残っていてもやがて其の緊は除かれ安らかになる、此れは治癒に向かう症候である、若し吐利の後脈は遅になり寒熱も除かれて六七日経っても食欲が出ない場合は続発症で吐利によって脾胃虚し多飲して水滞を生じたのである、此の時は人参湯などを用い水滞を除かないとそのままでは治癒することは出来ない、すすんで食する様になった場合は脾胃回復し治癒に向かっているのである。
46条 病六七日手足三部の脈皆べて至り大煩し而して口噤し言う能わず、其の人躁擾する者は必ず解せんと欲するなり。
病に罹って六七日して撓骨の寸関尺脈、趺陽 少陰脈皆て今まで現れ無かったものが触れる様になり厥冷が除かれ今度は熱証に変わり大煩して歯を食いしばって言葉が出ず手足をばたつかせてもがき出した場合は陽気離散の証ではなく陽気回復の兆で胃気が勝り脾気が伴わず胃熱を生じたのであり確実に治癒に向かっているのである。
47条 若しくは脈和し其の人大煩し目重く瞼の内際黄なる者は此れ解せんと欲すと為すなり。
若しくは脈は調和し病人は大煩し目はおもだるげにドンヨリして上瞼の外側の頬際が黄色くなった場合は陽色を現したのであって黄疸ではない、脾胃の調和が戻っていないからで回復に向かっているのである。
48条 脈浮而して数、浮は風と為し数は虚と為す、風は熱と為し虚は寒と為す、風虚相搏つは則ち灑淅悪寒するなり。
…血虚し血熱に因る脈数
脈浮(浮は虚脈)でその上数脈を併せる場合、浮は風を受け衛氣障害されたもので数は血が熱を被るのであるがそれは脾虚血虚に因るのである、風は衛気を傷り表に熱の停滞を生じ脾虚血虚は下焦の寒邪による、風に衛氣損傷され寒邪を追う事が出来ず寒表に留まればザワザワ寒気がするのである。
…辨脈41太陽中19 27条(浮数)太陽中22条浮而数(麻黄湯)
49条 脈浮而して滑、浮は陽となし滑は実と為す、陽実相搏つは其の脈数疾に衛気は度を失う、浮滑之脈数疾に、発熱し汗出ずる者は此れ治せずと為す。
浮脈は風や暑 燥などの陽邪に中てられ表の蒸泄が阻害されている事を表し滑は熱実則ち熱の鬱滞がある事を表している、陽邪が激しく熱の鬱滞が甚だしくなれば浮滑の脈は数ではやい疾やい打ち方をするようになり衛気が度を失い栄気が伴わなくなると蒸泄と津液の不調和が甚だしく熱の鬱滞は益々劇しくなる、浮滑之脈が数疾になり発熱し汗が出る場合は血中の体液が蒸される脱汗で、心臓は衰弱し治する事は出来ない。
50条 傷寒 咳逆上気し其の脈散なる者は死す、謂うは其の形損ずる故なり。
傷寒で込み上げる様な激しい咳でゼーゼーと呼吸困難を表す場合は表の塞がりであり按じて実の脈状の筈であるのに按じると散って消えてしまう根のない脈状を表す場合は肺気が絶え様としているからでこれは死証である、言うなれば証と脈が不一致で正気が減衰し肺気も途絶えようとしている末期の病状だからである。人が病に犯されたとき自然治癒が働くので血液は損なわれた所に集められるが治癒できず病が進行すれば自覚症状が発生する。この時は理化学検査で異常が現れる場合もあるがまだ多くの場合は検査に異常が見られない。従って最も早く異変が現れるのは脉で、方技では脉が重視され西洋医学の脉の見方と違い、三部九候を見、浮沈、遅数、大小、強弱、滑濇、堅濡などを見る
三部診法 人迎(足陽明胃経) 咽喉隆起の高さで総頚動脈の拍動部
寸口(十二経を候う)
趺陽(胃気を候う)
部位 脈状 臟 病邪
裏 沈 腎 寒は堅牢、水畜は沈潜
陽位で熱 洪 心 血
表 浮 肺 風は浮虚
表裏の間 弦 肝 支飲は急、弦
痛は動
煩熱は数
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