傷寒論 平脈法 第二
傷寒論 平脈法 第二
脈証を平明する (脈証の解明)
1条 問うて曰く 脈に三部有り陰と陽は相乗じ 栄衛血気は人の体躬に在り 呼吸出入して中を上下し息遊布するに因り津液は流通し時に随って動作し形容を效象す、春は弦、秋は浮、冬は沈、夏は洪、色を察し脈を観るに大小同じからず一時の間にも変じて経常無く尺寸参差し或いは短く或いは長く上下乖錯し或いは存し或いは亡び病輒わち改易し進退低昂す、心迷い意 惑し動もすれば綱紀を失す、願わくは為に具陳し分明を得さしめよ。師曰く子の問う所は道の根源にして脈に尺寸及び関の三部有り、栄衛流行して衡詮を失せざれば腎は沈 心は洪 肺は浮 肝は弦此れ自らの経常にしてしゅぶん銖分を失せず、出入昇降し漏刻周旋し水下二刻にして一周循環し当に寸口に復し虚実見わるべし、変化相乗し陰陽相干せば風は則ち浮虚、寒は則ち牢堅、沈潜は水畜、支飲は急弦、動なれば則ち痛、数なれば則ち熱煩す、設し応ぜざる有れば変の縁る所を知る、三部同じからざれば病は各端を異にす、大過は怪しむ可し不及も亦然り、邪は空しくして見われず、中に必ず奸有り審らかに表裏三焦の別を察すれば焉んぞ其の舎す所を知らん、消息診看して府蔵を料度すれば独り見わるること神の若とし、子の為に条記す、伝えて賢人に与えよ。
(素)玉機真蔵論
脈には三部あり、三部脈(人迎、寸口、趺陽)陰陽は互いにつけ入って襲う性があり、それぞれが調和を保ち栄衛血気が体の中に行き渡り呼吸は規則正しく体内を出入するによって栄衛血気は体の中を上下し息が行き渡りそれによって津液は流通し春夏秋冬の季節によって定められた役割を果たし脈を形づくる、春は弦脈 秋は浮脈 冬は沈脈 夏は洪脈 春の色は青 夏は赤 秋は白 冬は黒 四時の色を推し量り脈の形を観るが必ずしも法則どおりでなく陰陽不揃いであったり僅かの間にも変化して一定でなく尺寸も不揃いで高かったり低かったり或いは短かったり長かったり寸脈と尺脉軽按と重按の脈が食い違っていたり或いは存し或いは無くなったり脈の変化によって病状は変化して進行したり軽快したりする、判らなくなってしまって心は迷い或いは判断がつかなくなって原則は弁えていながら過ちを犯してしまう、私の為に詳しく説明して判る様にして下さい。 師が言われるにあなたの質問は方術の根本である、脈には尺寸と関の三部がある、栄衛の流行に不調和がなけれぱ腎の脈位は沈であり心の脈は洪であり(脈の勢い)肺の脈位は浮であり肝の脈位は弦である、此れが正常であって少しの狂いもないのである、脈の流れは手の三陰経脈によって内から外に出て足の三陰経脈に随って内に入り手の三陽経脈に随って升り足の三陽経脈に随って降る、一定の速さで巡り24時間が100刻だから28,8分で体内を一巡し撓骨寸口の肺脈が脈の出る所であるから当然此に復り虚実を現すのである、外邪が栄衛につけ入り陰陽の調和が乱れれば若し風が乗じたものであれば脈は浮虚、寒に傷られた病であれば脈は牢堅、脈が沈や潜であればそれは水滞や畜血によるもので肺循環不良による支飲の脈は急や弦で、動の脈は痛みを表し、数の脈は熱による煩を表す。若し其の病状と脈状にそぐわない所があれば病の原因は他から来ている事が判るし、手足及び寸関尺の脈が同じでなければ病の発端は各々異なっているのである、季節にそぐわない行き過ぎた太過の脈は注意が必要で季節に及ばない不及の脈も亦同様である。異常の脈は偶然に現れるものではなく必ず悪さを為す原因が有るのだから詳しく表裏上中下焦の別を考察し邪のある所を探しだして其の様子をよく見て臓腑の異常を推し量る様にすれば神のように誤ることが無いのである。あなたのためにその方法を箇条に列記するのであなたから亦賢人を選んで伝える様にしなさい。「以上方術説話参照」
2条 師曰く 呼吸は脈の頭なり。 …右寸口脈肺脈
呼吸は脈を統治する者である、一呼に二拍、一吸に二拍 太息一拍此れを平脈とする。(素)平人気象論
3条 初めて脈を持するに 来るは疾やく去るは遅きは此れ出疾入遅、名づけて内虚外実と曰うなり、初めて脈を持する時来るは遅く去るは疾やきは此れ出遅入疾、名づけて内実外虚と曰うなり。
脈をとったとき先ず指に当たる打ち方が寸脈に勢いが有り尺脉が鈍い場合は此れを出疾入遅、内虚外実と言うのである、血流の滞りが内に在り正気の虚を内に生じているのである、反対に寸脈が鈍く尺脉に勢いがある時は出遅入疾、内実外虚と曰うのである。外に血流の滞りが在り正気の虚を外に生じているのである。
4条 問うて曰く、上工は望んで之れを知り中工は問うて之れを知り下工は脈して之れを知る。願わくは其の説を聞かん。 師曰く、病家の人請うて言う、病人発熱し身体疼むが若く病人自ら臥すと。師到りて其の脈を診るに沈而して遅なる者は其の差えたるを知るなり。何を以てか之れを知る。表に病ある者は脈当に浮大なるべきに今脈反って沈遅の故に愈えたるを知るなり。
色々な診法の中で望問脈証は特に重要である、10人中9人を治すことができる上工は望証ですでに病の原因を知ることが出来、10人中8人を治すといわれる中工はそれに問証を加えてその病因を知り、10人中7人を治すという下工は更に脈証を加えてそ
の病因を知ると言われる、それは望証で病の外証や正気を量る事ができるし問証では更に病人の苦しむ所を知ることが出来る、更に脈証では病の表裏寒熱虚実を知る事が出来るからである、例えば発熱し身体疼む病証では脈は当然浮大で強く拍っている筈で脈を診たところが沈で遅であったという場合栄衛は弱いながら表の病邪は已に除かれている事が判るのである、この場合は問証で苦しむ所を知り脈証で已に病邪は除かれている事が判るのである。
5条 仮令えば病人言う、腹内卒痛すと、病人自坐す。師到りて之れを脈するに浮而して大の者は其の差えたるを知るなり。何を以てか之れを知る。若し裏に病有る者は脈当に沈而して細なるべし、今脈浮大の故に愈えたるを知るなり。
腹内卒痛は裏寒の証である、脈は沈細で緊張しているのがあるべき形で又自坐する事も出来ない筈である、然るに浮大は陽脈で裏寒去り陽気回復し衛虚の脈である、已に腹内卒痛の訴えは除かれていることが判る、この場合は問証で苦しむ所を知り望証脈証でその病症は除かれている事が判るのである。
6条 師曰く、病家の人来り請うて言う、病人発熱し煩極すと。明日師到るに病人壁に向かいて臥す、此れ熱已に去るなり設令脈和せざれば処して言え已に愈ゆと。
発熱煩極の病人なら悶えて布団を剥ぎ静かに臥してはいられない、それが風の通らない壁に面し安静に臥している状態なら已に熱は退いているのである、脈に不調和が残っていても陰陽和するに随ってやがて脈は正常に戻る筈である、この場合は問証で苦しむ所を知り望証で已に除かれていることを知るのである、脈証より望証を優先させたものである。
7条 設令 壁に向かいて臥し師の到るを聞き驚いて起きず而して盻視し若しくは三言三止し、之を脈して嚥唾する者は此れ詐病なり、設令脈自和するは処して言え、汝の病大いに重し当に吐下薬を服し鍼灸数十、百処に須うべし、乃ち愈ゆと。
頼りにする医師が訪れれば待ち兼ねて慌てて起き上がり病状を綿々と訴えるのが病人の常である、それが壁の側を向いて臥し渋々起き上がり問うてもうるさげに答えるだけで病気の様にも見受けられず脈を執るとゴクンと生唾を飲み込むのは詐病が知れるのを恐れたものである、この様な時は驚かしてやれ、望問脈に異常が認められなければ無病である。
8条 師脈を持するに病人欠する者は無病なり。之れを脈して呻する者は病なり。言の遅き者は風なり、頭を揺るがして言う者は裏痛むなり、行すること遅き者は表強るなり坐して伏する者は短気なり、坐して一脚を下げる者は腰痛むなり、裏実し腹を護ること卵物を懐くが如き者は心痛するなり。
欠伸は弛緩状態で気血に急な所は無いのである、無病である。呻く者は苦痛があり病を表す。話す時舌がもつれるのは中風病である。裏に痛みが有るとき言おうとすれば腹筋が攣れるので自然頭が傾ぐ。行動がのろいのは筋肉の強ばりのためである。呼吸促迫がある場合は臥すことが出来ず坐って俯せになる、その方が楽だからである。腰が強ばり痛む時は座る時片膝立てるか腰掛けの時は一脚だけ下げて座る、これは腰の関節を緩めて楽だからである。胸痛の有るときは背を伸ばすことが出来ず腹が一杯詰まって抱えているようで丁度卵を懐いているように見える。脈と望証で病を知る例である。
9条 師曰く 伏気の病は意を以て之を侯え、今月の内に伏気有らんと欲するは仮令えば旧と伏気有れば当に須らく之れを脈すべし、若し脈微弱の者は喉中痛み傷るるに似たるべきも喉痺に非ざるなり。病人言う、実に喉中痛む、尓りと雖も今復って下利せんと欲すと。
伏気の病は冬 寒邪を受け陽気乏しく邪気も弱く発症しない儘下焦の機能は回復せず春分に至り陽気外に旺んになり体内の代謝も盛んになって熱が鬱滞し発熱するが陽気が弱い為に完全には邪気を去らせる事ができず冬時再び寒邪は勢いを増しこれを繰り返すのである、外証が現れないのでこの様な時は脈証を重視しなければならない、若し脈が微弱で有れば少陰経に邪が在るのだから当然喉中が痛む筈であるが喉に爛れがあるわけでは無く更に寒邪が中焦に及べば脾胃の機能が衰えるから下利をもよおす様な感じになるのである。これは脈証により病位を知るのである。
10条 問うて曰く 人病み恐怖する者は其の脈何の状か。師曰く 脈の形 糸を循ずるが如く累累然としてその面 白く脱色するなり。
神経症で恐怖するときの脈状は血管収縮し脈流は停滞し脈は細い糸をなでる様で堅くゴツゴツした節をなでる感じで顔面は血の気が引いて蒼白である。恐怖の望 脈証
11条 問うて曰く 人飲まざるは其の脈何に類するか。師曰く 其の脈自ら濇にして唇口乾燥するなり。
飲食しなけれぱ潤わず血中の津液は乏しく粘稠性を増すので脈は渋り唇や口中が燥く、虚熱の脈 望証である。
12条 問うて曰く 人愧ずる者は其の脈何に類するか。師曰く 脈は浮而して面色は乍まち白く乍まち赤し。
顔から火がでる、愧じると一瞬ショックを受け次の瞬間気が浮かぶ、脈は浮で顔色は白く赤く定まらない。
13条 問うて曰く 経に説く 脈に三菽六菽の重さの者有りとは何の謂ぞや。師曰く脈は人の指を以て之れを按じ三菽の重さの如き者は肺の気なり、六菽の重さの如き者は心の気なり、九菽の重さの如き者は脾の気なり、十二菽の重さの如き者は肝の気なり
之れを按じて骨に至る者は腎の気なり。 …蔵の気衰えるは夫々の脈位に病脈を現わす
肺気は蒸泄の気 心気は陽気(正気) 肝気は血気 脾気は栄気、腎気は水気。経に説くは難経 一菽はそら豆の重さで10菽は11,4グラム 五蔵の気が衰える時は夫々の脈位に病脈を現す 、肺気は約3グラムの重さで按じた深さに病脈を現す、心気は約6ゲラムの重さで按じた深さに病脈を現す、脾の気は9ゲラムの重さに病脈を現し、肝気は12グラムの重さに、腎の気は深く按じ骨に達する位置に病脈を現す。
14条 仮令えば下利し 寸口 関上 尺中悉とく脈を見わさず然も尺中に時に一度少しく見わし脈再び頭を挙ぐる者は腎気なり。若し損脈来り至るを見わさば難治となす。
例えば下利は脾胃の異常であるが寸関尺脈すべて脈が現れず然も尺脉に時をおいて一度だけ小さく見われそれから段々に脈が現れてくる場合は腎の脈が現れている、若しその脈が陽気を損じた遅脈、脈、微脈などを現す場合は腎気の衰えが脾に及んだ下利で横であるから難治である。病脈に蔵の気を現す場合はその病症が何蔵から及んだものであるかを表わしている。
15条 問うて曰く 脈に相乗ずる有りて縦有り、横有り、逆有り、順有りとは何ぞや。師曰く 水行きて火に乗じ、金行きて木に乗ずるは名づけて縦と曰う。火行きて水に乗じ、木行きて金に乗ずるは名づけて横と曰う。水行きて金に乗じ、火行きて木に乗ずるは名づけて逆と曰う。金行きて水に乗じ、木行きて火に乗ずるは名づけて順と曰うなり。
腎は水であり寒であり沈伏であり緊であり濇である、心気が弱い場合水気が乗じ心の虚に腎の脈沈緊が現れる、木気が弱い場合金気が乗じ肝の虚に肺の脈浮が現れる此等の場 合を縦と言う、例えば水気上衝の奔豚には腎脈の沈緊が現れ、営血虚し労の時に浮脈を現わす、水気弱い為に火が水に乗じ腎の虚に火の脈を現し、金気弱い為に木が金に乗じ肺の虚に弦脈を現す、例えば津液の巡りが乏しい為に熱が鬱滞し洪大の脈を現し、蒸泄が弱い為に肺実を起こし弦脈を現す此等を横と言う、金の気が弱く水気が乗じ肺の虚に腎の脈を現し、木の気が弱く肝の虚に洪大の心の脈を現す場合は逆と言う、例えば表気弱く湿を起こした場合、亡血し血中に熱が鬱滞した場合である、水気弱く腎の虚に肺の脈を現す、火の気弱く心の虚に肝の脈を現す場合を順と言う、体液が巡らない為に表熱や咳(肺熱)を発する場合、血流が鬱滞する時の弦脈などである。相援けることをせず五蔵の調和が損なわれる為に病気を生じるのである。
16条 問うて曰く 脈に残賊ありとは何の謂ぞや。師曰く脈に弦 緊 浮 滑 沈 濇有り、此の六者は名づけて残賊と曰う、能く諸脈は病を為すなり。
栄衛を障害し災いを残す病原により病脈は夫々異なる、陽虚は弦脈を現し、寒邪は緊を現し、風邪は浮脈を現し、熱邪は滑を現し、水気は沈を現し、湿は濇を現し、此等は何れも病脈である。
17条 問うて曰く 脈に災怪有りとは何の謂ぞや。師曰く 仮令えば人病み脈して太陽を得て形証と相応ず、因って湯を作るを為し還る比ほいに湯を送り食頃の如くにして病人乃わち大吐し若しくは下利し腹中痛む、師曰く 我前に来りしに此の証を見わさず、今乃わち変異す此れ災怪と名づく。又問うて曰く 何に縁り此の吐利を為すか。答えて曰く或いは舊時薬を服する有りて今乃わち発作す故に災怪と名づくるのみ。
脈証相応じ誤る事なく方剤を選んで与えた所少し経って吐利の証を発した、これは以前に服用した薬が病症の変化に連れて後になって効を現したもので予知する事が不可能な変証である、この様な場合は災怪と言うのである。
18条 問うて曰く 東方の肝の脈は其の形何に似るか。師曰く 肝なる者は木なり、厥陰と名づく…陰の終り(陰中に陽が厥ける)、少陽は陽の初め陽少ない…其の脈微弦濡弱而して長、是れ肝の脈なり、肝病みて自ら濡弱を得る者は愈ゆるなり。仮令えば純弦の脈を得る者は死す。何を以て之れを知るか。其の脈弦直の如きは是れ肝臓傷るるを以ての故に死することを知るなり。
五行論で東は夜の終り朝日が昇る方角で、季節では冬の終り陰中から陽が伸びようとする春でありその性は柔軟で強靭な木であり、血流が裏から表に伸びようとする中間の位で、厥陰肝の脈は陰多く陽微に且つ陰が衰え始め沈緊が少し浮き上がった微弦で柔らか味が少しあって拍動が弱く長い脈状で微弦濡弱而長が肝の平脈である、肝を病む人が此の様な脈状を現す時は肝の陽気は回復に向かっていて治癒するが若し弦だけで濡弱の加わらない脈状の時は肝の陽気は損なわれ陰だけになっているのだから死証である。…血管の堅さで肝気の盛衰を診る。
19条 南方の心の脈は其の形何に似るか。師曰く 心なる者は火なり、少陰と名づく、其の脈は洪大而して長是れ心の脈なり、心を病みて自ら洪大を得る者は愈ゆるなり、仮令えば脈来ること微、去ること大なるは故に反と名づく、病裏に在るなり。脈来ること頭小にして本大なる者は故に覆と名づく、病表に在るなり、上微にして頭小の者は則ち汗出で、下微にして本大の者は則ち関格して通ぜずと為す、尿するを得ず頭に汗無き者は治すべし汗有る者は死す。 …陽気(正気)の盛衰
心の脈は洪大で長が平脈である、心を病む者が洪大の脈を現して来れば陽気回復して来たもので治癒する、例えば脈が打って来る勢いで見る時陽位の寸脈が微、陰位の尺脉が大で勢いがある場合は陽位に陽気が乏しく洪大の心脈の打ち方とは逆でその故に反と言うのである、こういう脈の時は裏気に滞りが有り表に陽気が伸びないのであるから病は裏に在るのである、脈の打って来る形で見る時 頭小本大、寸脈が軽按で小で尺脉が軽按で大は洪大の脈形と異なり陰位に陽脈がかぶさっているので覆と言う、この場合は表に陽気伸びず表に陽虚しているのである、寸脈が軽按して小で按じて微の場合は陽気乏しいのであるから亡陽して汗が多く出る、尺脉が大で按じて微の場合は陽気上焦に散じ下焦に陽気巡らず陰は閉ざして陽気入れず上焦は陽気拒んで陰気入れず関格して陰陽は交流を保てず尿は出なくなる、この場合に頭に汗が無い場合は上焦の熱の鬱滞は少なく陰気は消耗され尽してはいないから治す事ができるが頭に汗が有る場合は熱の鬱滞が強く津液の消耗甚だしく陰気上焦に竭くので治す事は出来ない。
…3条参照(出疾入遅、出遅入疾)
20条 西方肺の脈は其の形何に似るか。師曰く肺なる者は金なり、太陰と名づく、其の脈は毛浮なり、肺を病み自ら此の脈を得若しくは緩遅を得る者は皆愈ゆ、若し数を得る者は則ち劇し。何を以てか之れを知る。数なる者は南方の火、火は西方の金を剋す、法当に廱腫すべし、難治と為すなり。
発散不良で熱の鬱滞を為す。火金に乗ずるは縦。
21条 問うて曰く 二月に毛浮の脈を得るは何を以て処して言う、秋に至り当に死すべしと。師曰く二月の時は脈当に濡弱なるべし、反って毛浮を得る者は故に秋に至り死する事を知る、二月は肝 事を用う、肝脈は木に属し濡弱に応ず反って毛浮を得る者は是れ肺の脈なり、肺は金に属し金来りて木を剋す、故に秋に至り死するを知る、他は此れに倣え。
肺肝に乗ずるは縦 肝気衰微し正陽は伸びる事ができないことを表す、二月「現在の三月」春の脈は濡弱である筈なのに秋の毛浮が現れている場合正陽は滅び伸びることが出来ないでいることが判る、従って外の陽気が乏しくなって来る秋になると益々陰を増し死に至ることを知るのである。5月「現在の6月」の沈脈は冬 8月「現在の9月」の洪大は夏 この場合も同様である。
22条 師曰く 脈は肥人は浮を責し痩人は沈を責す、肥人は当に沈なるべきに今反って浮、痩人は当に浮なるべきに今反って沈、故に之を責す。
肥人は皮下脂肪が多く胃気実し気味で脈は沈んでいる、痩人は皮下脂肪は少なく裏気乏しいので表に熱が籠り気味で脈は浮く、当然有るべき脈と異なる脈状を表す時は其の脈を現す原因に病因をもとめる。
23条 師曰く 寸脈下りて関に至らざるは陽絶と為す、尺脉上りて関に至らざるは陰絶と為す、此れ皆治せず決死なり、若し其の余命死生の期を計らんとせば期するに月節の之れに剋するを以てするなり。
尺脉だけは打っているが関寸は触れて来ない場合は表に陽気が途絶え衛気は機能しなくなり冷えているのである、此れは陽絶である、寸脈だけは打っているが関尺が触れない場合は裏気は途絶えて栄気は枯れたのである、此れは陰絶で此等の場合は表裏片方が絶し調和させることが出来ないのだから治することは不可能である、若し余命や死期を知ろうと思えば月や節がその陽絶 陰絶を剋する月節、則ち陽絶なら陰月…7月から12月…陰絶ならば陽月…正月から6月…までを期とする。
24条 師曰く 脈病みて人病まざるは名づけて行尸と曰う、王気無きを以て卒かに眩仆し人を識らざる者は短命にして則ち死す、人病みて脈病まざるは名づけて内虚と曰う、穀神無きを以て困すると雖も苦しむ事無し。
人は其の季節季節の蔵の気が脈に現れて平の脈を為している、ところが脈に其の気が現れて無いのに何の症状も訴えない場合は行尸則ち生ける屍で順応を失っているのである、此れは五蔵の気が失われているのだから突然に意識を失って倒れる場合は短命である、反対に様々な症状を訴えるのに脈には何の異常も現さない場合は内虚で此れは栄養の代謝が悪くなっていて色々な症状が有っても病み苦しむ事は無いのである。
25条 問うて曰く 翕奄沈は名づけて滑と曰うは何の謂ぞや。沈は純陰と為し翕は正陽と為す、陰と陽と和合す、故に脈をして滑ならしむ、関 尺自ら平にして陽明脈微沈 食飲自可し、少陰脈微滑、滑なる者は緊の浮かびし名なり、此れ陰実と為す、其の人必ず股内汗出陰下湿るなり。 …陽気弱く陰実するに因り陰気が巡らず実する滑脈。
翕奄沈と言うのは下から盛り上がる勢いが有り其れを上から覆って押し沈める勢いが拮抗する状を言うのでこの様な脈状は滑と言うのである、沈は純陰則ち腎陰で翕は正陽則ち胃陽で胃陽と腎陰が融け合って將せず陰気を率いる事が出来ないために滑の脈を為さしめるのである、此の場合寸脈だけに滑脈が現れて関尺には病脈を現さず上焦に熱が鬱滞しているが足の陽明衝陽の脈は微で沈んでおり胃気弱いが胃気に滞りは無く食飲は普通に出来る、足の少陰太谿の脈は微滑であるが此の滑は陽気が巡らず腎気が浮かび上がったもので下焦に陰気が実して伸びないもので(辨脈43条 衛気乏しく邪気膀胱に留まり腎気実す)上焦の熱は下焦の陰気が巡らないことが原因でこの病人は下焦に水気多く膀胱熱に蒸されて股内が汗ばみ陰部が湿って来るのである。
26条 問うて曰く 曾て人の為にくる難しめられる所の緊脈は何により而して来るか。師曰く 仮令えば亡汗し若しくは吐し肺裏寒ゆるを以ての故に脈をして緊ならしむるなり、仮令えば咳する者坐して冷水を飲み故に脈をして緊ならしむるなり、仮令えば下利し胃中虚冷するを以ての故に脈をして緊ならしむるなり。
誤治によって生じる緊脈は例えば発汗が過ぎて陽気を失い汗を出せなくしてしまった場合や若しくは吐かせて胃の陽気を損じてしまったりして肺や胃、表や裏に寒を生じる為に脈に緊脈を生じるのである、仮令えば咳が激しい場合に喉を潤すとしてしきりに冷たい水を飲ませて胃中虚冷した場合にも緊脈を生じる、仮令えば下利させて胃中虚冷させた場合にも緊脈を表すのである。
27条 寸口の衛気盛んなるは名づけて高と言う。
表の蒸泄が盛んに行われているときは脈は浮いて速い此れを高と言う。
28条 栄気盛んなるは名づけて章と曰う。
営血が多ければ血色も良く脈も充実する此れを章と言う。
29条 高章相搏つは名づけて綱と曰う。
蒸泄が甚だしく営血の巡りが活発で代謝が異常昂進する場合は脈も太く強い此を綱と言う。
30条 衛気弱きは名づけて惵と曰う。
表の蒸泄力が乏しい場合は脈は微ではっきり現れなくなる此を惵と曰う。
31条 栄気弱きは名づけて卑と曰う。
栄気が乏しい場合は脈は柔らかく弱い此を卑と曰う。
32条 惵卑相搏つは名づけて損と曰う。
表の蒸泄も低く営血も乏しい場合を損と曰う、病邪に対応出来ず回復力も弱いのである。
33条 衛気和するは名づけて緩と曰う。 …辨脈16条 桂枝湯の脉
衛気弱まり将せず蒸泄弱まり汗出数から緩は衛気栄気が調和した脈風を受けて衛氣損傷され蒸泄低下し汗が出るのは栄気を弱め衛気と調和させているもので熱が除かれれば数脈から寸脉浮,尺脈弱のユッタリした脈状に変わる、此れを緩と曰う。
太陽上12条(陽浮而陰弱)栄衛調和する脈状
34条 栄気和するは名づけて遅と曰う。 …寒去り緊から遅は陽気回復し榮気と和合する脈で榮気の滞り回復する脈
栄気は血と倶に脈中を行くので寒をうけ血渋れば緊脈を現すが寒邪緩めば陽気回復し榮気陽気と調和し一息三至のゆっくりした脈状を現す、此れを遅と言う。
35条 遅緩相搏つは名づけて沈と曰う。
衛気榮氣倶に乏しく衛氣將するなければ表氣は伸びられず脉は深く潜む、此を沈と曰う。
…陽気が伸びない脈状 表気乏しい脈 栄衛について 太陽中23条参照 平脈33条参照
病人が汗が出るのは衛気が損傷されて回復せず栄気は通じていても栄衛に調和が得られないからである。次に脈中脈外の内外で単純に栄衛の陰陽を規定している先人も多いが此の脈は何を意味するのかである、近代生理学では細小血管の粘膜を滲出した血中の体液は組織間を流れ細胞に栄養を供給し老廃物、代謝熱を受けとりリンパ管を経て静脈中に戻り汗腺を通じて一部は汗で一部は腎臓から尿で排泄され体液代謝をすることが知られている。皮膚からの蒸泄は気化熱に対し皮膚の表面温度を一定に保つことで成り立つのであるから此の条文からすれば皮膚表面の血流が保たれず汗が蒸発されないものと解され衛は表の毛細血管の血流をさしていると考えられ、栄気は血中の体液が細小血管から滲出し皮膚表面に漏出するまでを主り、脈は血管だけでなく血管壁から滲出した体液が流れる通路も含めているとするのが妥当であらう。即ち衛気は血に起因する機能であり、栄は体液を指す、衛は陽であり血に属し、栄は陰であり水に属する。ちなみに傷寒論、金匱要略では私の見落としかも知れないが営の文字は用いられずその場面では血と言っている、即ち栄と血は区別して用いられておりこの事は血中に体液の存在することが既に知られており全体に総括する場合と血中から分離する体液部分を示す必要に応じ使い分けられたものと思われる。
36条 寸口の脈緩而して遅、緩は則ち陽気長じ其の色鮮、其の顔光り、其の声は商、毛髪長ず、遅は則ち陰気盛ん骨髄生じ、血は満ち、肌肉は堅薄鮮鞕、陰陽相抱き栄衛倶に行ぐり剛柔相搏つは名づけて強と曰うなり。
撓骨の脈が緩で遅、此の場合の緩は陽気が伸びて行き渡り顔色は良く肌艶も良く声は良く通り毛髪も良く伸びる、又此の場合の遅は栄養状態が良いためで血も行き渡り肌肉はしまってブヨブヨしていない、陰陽相和し栄衛調和を保っていずれ劣らず力強い脈状の場合を強と曰う。
37条 趺陽の脈滑而して緊、滑なる者は胃気の実 緊なる者は脾気の強、実を以て強を撃てば痛み還りて自ら傷る、手を以て刃を把れば坐して瘡を作すなり。
趺陽の脈が滑で按じて緊である、滑というのは陽気の滞りであるから胃の熱実であり緊というのは寒であり鬱滞の脈であるから脾気は伸びず充実して強い、脾気胃気倶に強くても相援けて機能することをしていないのであるから脾胃どちらも傷つく事になる。
38条 寸口の脈浮而して大、浮は虚となし大は実と為す、尺に在れば関と為し寸に在れば格と為す、関なれば則ち小便するを得ず格なれば則ち吐逆す。
撓骨の脈が浮で大を現し浮は表証に因るものでなく胃気の虚に因るもので大の脈は充実し血実の脈である、この様な脈が尺中だけに在れば「5倍位の差が有る」下焦に陰気が鬱滞し陰閉じて出ださず則ち関であり寸口だけに現れる場合は上焦に陽気鬱滞し陽拒んで陰入れず則ち格である、上下陰陽は交流せず関の時は下焦に陰気偏盛陽気減衰し尿意が有っても小便が出なくなり格の時は上焦に陽気偏盛して下らず吐逆を現す。
39条 趺陽の脈伏而して濇、伏は則ち吐逆し水穀化せず、濇は則ち食入るを得ず、名づけて関格と曰う。
脾胃の関格である、趺陽の脈が伏して現れず重按して渋る時は伏は胃気閉じて出でず吐逆して正常な運動機能停止し濇は脾気通ぜず消化吸収機能も停止し脾胃の機能は減衰して食べ物を受入れることが出来ない、これを関格と曰う。
40条 脈浮而して大、浮は風虚と為し大は気強しと為す、風気相搏つは必ず隱疹を成し身体痒を為す、痒を為す者は泄風と名づく、久久にして痂癩を為す。
脈浮で大、浮脈はこの場合は風に中り衛気が損傷されたもので大脈は熱の鬱滞を現す、衛気を損じ熱の鬱滞を増せば丘疹を生じ体中が痒くなる、此の痒みがあるものを泄風と言う、久しく治らないとクサできものになり爛れたりかさぶたを生じる。
41条 寸口の脈 弱而して遅、弱なる者は衛気微 遅なる者は栄寒に中る、栄は血と為す 血寒えれば則ち発熱す、衛は気と為す 気微なる者は心内飢ゆ、飢え而して虚満し食する能わざるなり。
撓骨の脈が按じて弱で遅、此の場合弱は衛気の微を表し、遅は栄が寒に中てられ血流が渋るのである、栄は脾に由来し血と一体であるから寒に中り血流が渋れば衛氣微と併せて熱が鬱滞し発熱する、衛は穀気、胃気に由来するのであるが微であれば穀気を補おうとするが胃気は微であるから滞り空腹感は有るが裏は通じないので虚満し食べる事が出来ない、則ち裏氣虚寒し外に熱が滞るのである。 霊枢 営衛生会篇18参照
42条 趺陽の脈大而して緊の者は当に即ち下利すべし、難治と為す。
趺陽の脈が大で按じて緊の場合は胃気実し脾気鬱滞し相援けて機能することをせず当然下利になる筈であるがこれは下焦に寒があるためで下焦の寒が中焦に及んだ下利であるから逆と為し難治である。(胃熱脾寒し下に暴発する下利)
43条 寸口の脈弱而して緩 弱なる者は陽気不足、緩なる者は胃気に余り有り、噫し而して呑酸し食卒かに下らず気膈上を填むるなり。
撓骨の脈が按じて拍動が弱くゆったりした打ち方である場合、此の弱は陽気不足衛気が乏しいのであり緩は脾気巡らず胃気が滞るのである、則ち脾胃の気が乏しい為に消化吸収機能が低下しているのだから酸っぱいゲップがあがり食べた物が何時までも停滞し胸が痞えるのである。
44条 趺陽の脈緊而して浮 浮は気と為し緊は寒と為す、浮は腹満を為し緊は絞痛を為す、浮緊相搏つは腸鳴し而して転ず、転ずれば即ち気動き膈気乃わち下る、少陰の脈出でざるは其の陰腫大し而して虚するなり。
趺陽の脈が緊で浮いている場合は弦であり、浮は胃気の滞るに因るもので緊は脾気の実則ち寒を表す、胃気滞れば腹満し寒により胃気塞がれ腸管は攣急し絞痛する、胃気塞がれ腸管が攣急し胃気と脾気が伯仲しそれが昂じると腸がゴロゴロ鳴り腸が動く それにつれて胃気が動き隔膜を押し挙げていた胃氣は下方に移動する、若し足の太谿少陰の脈が伏して現れない場合は下焦に陽気が巡らず陰閉じ腹圧を増し脱腸を起こして裏気は損なわれ脾胃は増々虚するのである。
45条 寸口の脈微而して濇、微なる者は衛気行らず濇なる者は栄気不足す、栄衛相将いる能わず三焦仰ぐ所なければ身体痺して不仁す、栄気足らざれば則ち煩疼し口言し難し、衛気虚すれば則ち悪寒し数しば欠す、三焦其の部に帰せず上焦帰せざる者は噫し而して酢呑す、中焦帰せざる者は穀を消し食を引く能わず、下焦帰せざる者は則ち遺溲す。
撓骨の脈が微で按じての場合は微脈は陽気の微 表の蒸泄力が乏しい事でありは栄気乏しく津液が乾いていると言う事である、栄衛は共に巡るのであるから二つながら衰えては三焦は調和の保ち様もなく血液は末梢に巡らなくなり知覚は麻痺して体がしびれ運動も不自由になる、栄気の衰えが甚だしい場合は乾いて熱が鬱滞するので煩疼し筋肉が硬直し口が縺れたりする、衛気の衰えが甚だしければ津液が表に停滞し寒気がし肺気も乏しくよく欠伸がでる、三焦が調和出来なくなり上焦の調和を失った場合は肺熱を生じ裏気が下らず胃気が滞り胃液を伴った酸っぱいゲップがでる、中焦脾胃が失調した場合は消化吸収機能が衰え食べることが出来なくなる、下焦の機能が失調した場合は膀胱の締まりがなくなり尿を漏らす。
46条 趺陽の脈沈而して数、沈実を為すは数は消穀す、緊の者は病治し難し。
趺陽の脈が沈実で数の場合は胃気実し胃熱であるから良く消化し良く食べる、趺陽の脈沈緊で数の場合は脾寒に因る血熱で下焦の寒が中焦に及び脾胃の働きは阻害されているので食思は有っても消穀できない 逆と為し治し難い。
47条 寸口の脈微而して濇、微なる者は衛気衰う、濇なる者は栄気不足す、衛気衰えるは面色黄し栄気不足するは面色青し、栄は根と為し衛は葉と為す、栄衛倶に微なれば則ち根葉枯稿し而して寒慄し咳逆して腥を唾し涎沫を吐するなり。
撓骨の脈が微での場合微は衛気の衰微であり濇は栄気乏しきを表す、衛気が衰微すれば津液が停滞し熱が鬱滞し湿熱を生じて肌色はくすんで黄色くなる、営血乏しければ肌艶がなく青白くなる、栄は木で例えれば栄養を供給する根にあたり衛は葉にあたる、栄衛倶に衰微すれば根も葉も枯れて冬の木と同じで陽気乏しく寒気でおぞ慄い肺気も衰え激しく咳き込み生臭い唾を出し唾液の様な薄い痰を吐くのである。 …肺痿で甘草乾姜湯皀莢丸を撰用…
48条 趺陽の脈浮而して芤、浮なる者は衛気衰う、芤の者は栄気傷らる、其の身体痩せ肌肉甲錯す、浮芤相搏つは宗気衰微し四属断絶す。
趺陽の脈が浮(陽気の浮この場合は散)で按じて中空の脈状を現す場合浮は胃気の虚則ち衛気の衰えであり芤は脾気衰え営血が損なわれていることを現す、従って此の脈状の場合は体は痩せ肌は張りが無くカサカサで潤いがなくなる、衛気栄気倶に衰え調和が保てない時は肺気は衰微し肺心肝腎の正気は全て絶えてしまうのである。
49条 寸口の脈微而して緩、微なる者は衛気の疎、疎なれば則ち其の膚は空す、緩なる者は胃気の実、実なれば則ち穀を消し而して水は化するなり、穀胃に入れば脈道乃わち行われ而して水 経に入れば其の血乃わち成る、栄盛んなれば則ち其の膚必ず疎に三焦経を絶つ、名づけて血崩と曰う。
撓骨の脈が軽按して微、中按して緩の場合微は衛気が行き渡っていない従って表の調節を失調し熱の鬱滞を生じ易くなる、緩は胃気の有余則ち胃気勝り胃気実し良く食べ良く消化され良く吸収される 良く食べて経気は充実し血液も不足なく作られる、栄気だけが充実され衛気が対応されなければ皮下脂肪を作り肌膚はブヨブヨに成り、代謝熱は盛んで蒸泄が低いので体の調和は乱れ熱が鬱滞し血熱し出血し易くなる、此れを血崩と言う。…皮下脂肪が多く熱が発散出来ずに出血しやすくなる。
50条 趺陽の脈微而して緊、緊は寒と為し微は則ち虚と為す、微緊相搏つは則ち短気を為す。
趺陽の脈微で按じると緊、緊は脾の寒であり脾気の鬱滞であり微は胃気の虚 陽気の虚である、脾寒し胃気衰えれば胃内停水を生じ栄衛巡らず肺熱を生じ呼吸は促迫する。…胃腸が弱く息切れする。
51条 少陰の脈弱而して濇、弱なる者は微煩し濇なる者は厥逆す。
足の太谿少陰の脈は腎の気を侯い弦而浮微に見わるが平脈である、少陰の脈が弱の場合は下焦に陽気巡らず津液巡らず血中に熱の鬱滞を生じ微に心煩する、少陰の脈に濇を伴う場合は心気虚し(血中に津液が巡らない為に血液流動性が低下し末梢に循環障害を起こし)手足先から冷え上がる、則ち弱而の少陰脈は下焦に寒があり津液が巡らず胸膈に熱を生じて微煩し手足から冷え上がる、胃気弱く脾気滞る、厥陰病である。
52条 趺陽の脈出でざるは脾は上下せず身冷し膚鞕し。
趺陽の脈が触れないのは脾胃の機能が甚だしく衰えて脾の輸化機能が働かないのである栄養状態は悪く体温も低く肌肉の弾力も乏しい。
53条 少陰の脈至らざるは腎気微にして精血少なし、奔気促迫し上って胸膈に入れば宗気は反って聚まり血は心下に結し陽気退き下りて熱は陰股に帰し陰と相動じ身をして不仁ならしむ、此れ尸厥と為す、当に期門、こけつ巨厥を刺すべし。
少陰の脈が打ってこないのは心気衰え下焦に陽気が巡らず腎気衰微し精気営血が乏しいのである、陽気下らなければ陰気上衝し「下行血流乏しく血管痙攣が起きる」衝き上げる様な異常感が胸膈まで達すると呼吸が詰まって血流は心下部に鬱滞し体中の血の気が失せて下焦の血液循環は減退して上行出来ず但厥陰肝経の陰股だけが温かく上下の血流が巡らないので体は冷たくなり死人の様に動かなく成る、此れは尸厥である、此の時は肝の募穴期門と心の募穴巨闕を刺し経を通じるのが良い。
54条 寸口の脈微 尺脉緊なるは其の人虚損し多汗す、陰に常に在りて絶たれて陽に見われざるを知る也。
寸口の脈微 尺脉は按じて緊であるのは下焦に寒が在り津液が巡らず血中の津液は乏しく陰虚血熱して体力は消耗し血中の津液が蒸されて汗が多く出る(脱汗)、此れは下焦の津液が巡らず上焦に津液が乏しい為に蒸泄が出来ないのである。 …亡陽
55条 寸口諸の微なるは亡陽、諸の濡なるは亡血、諸の弱なるは発熱、諸の緊なるは寒と為す、諸に寒を乗ずる者は則ち厥を為す、鬱冒し不仁するは胃に穀気無きを以て脾濇りて通ぜず口急して言う能わず戦し而して慄する也。 (寸口弱は33、35条参照)
寸口三部の諸の脈状例えば沈浮数遅等に微が加わるときは陽気の減衰 亡陽とする、諸の脈状に按じて濡が加わる時は血量の不足 亡血とする、諸の脈状に弱が加わる時は衛氣の微 蒸泄力が乏しいもので発熱する、諸の脈状に緊が加わる時は循環の停滞 下焦の寒である、此等微 濡 弱が加わった諸の不足に寒が乗じる場合には陽気巡らず厥を起こす、のぼせた様に頭がボーッとして意識が障害され体が動かなくなる場合は中焦に寒が乗じ胃に陽気が乏しく栄養の摂取が出来ず栄血は虚して筋肉は硬直し口は強張って物が言えなくなり表は冷えてガタガタ震え鳥肌が立つのである。濡は柔細で浮(血虚、腎虚)弱は柔細で沈(陽気減衰)
56条 問うて曰く 濡 弱は何を以て反って十一頭に適するか。師曰く五蔵六府に相乗ず故に十一ならしむ。
五蔵六府 体中くまなく営血の巡らない所は無い、脈は表す部位を持っているが濡も弱も営血の不足を侯う脈で陰陽表裏五蔵六府何処の病にも乗じるのである。
57条 問うて曰く 何を以て府に乗ずるを知り何を以て蔵に乗ずるを知るか。師曰く諸陽の浮数は府に乗ずると為し諸陰の遅濇は蔵に乗ずると為す也。
濡 弱の脈が府病に乗じているのか蔵病に乗じているのかを知るには府病は熱証を現すから左右三部の陽脈の濡弱に浮数が加わる時は府病に営血不足が乗じ、蔵病は陰証を現すから左右三部の陰脈の濡弱に遅濇が加わる時は蔵病に営血不足が加わっている事を知るのである。
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