傷寒論 辧太陽病証并治法上 第五
傷寒論 辧太陽病証并治法上 第五
衛気損傷に因る表の蒸泄障害
1条 太陽の病たる脈浮 頭項強痛し而して悪寒す。
太陽病は表の蒸泄が障害され表熱を生じた病症で脈浮 頭痛 項凝りし其れに加えて悪寒がある。
(頭 項は太陽位の中でも陽中陽の位置である)
2条 太陽病 発熱し汗出で悪風し脈緩なる者は名づけて中風と為す。
脈浮緩で頭項強痛し汗出で悪風は衛気が損なわれて蒸泄が滞り汗を漏らし栄気を損じて栄衛の調和を計ろうとしている事を表す、太陽病で衛気が弱まり悪風し汗出で熱が滞る場合を中風と曰う。…衛気損なわれ汗出で栄衛弱まる。 太陽中23条
3条 太陽病 或いは已に発熱し或いは未だ発熱せざるも必ず悪寒し体痛し嘔逆し陰陽倶に緊なる者は名づけて傷寒と曰う。
…寒は表裏の脈を結する太陽病は脈浮
太陽病(頭項強痛悪寒脈浮)寸尺倶按じて緊で表気裏気倶に結する、表に陽気達せず必ず悪寒し深部に熱が鬱滞するので体痛し熱気の上衝甚だしく嘔逆し(胃気越せず)邪気裏に在るは発熱せず邪気表に在るは発熱する、此の様な病証を現すものを傷寒と曰う。
4条 傷寒一日は太陽之れを受く、脈若し静かなる者は伝えずと為す、頗ぶる吐せんと欲し若し燥煩して脈数急の者は伝えると為す也
傷寒に罹り一日目は太陽経が病を受ける、当然生体反応が発現するが若し脈状が平静で早く打っていない場合は正気が勝り病は治癒しようとしているので他に伝える事は無い、吐き気が甚だしく若し熱の為に安静に出来ず脈が慌ただしく打っている場合は病勢が進み伝経したのである。
5条 傷寒二三日 陽明少陽の証見われざる者は伝えずと為す也。
傷寒を患い二三日しても煩燥脈大、口苦嘔脈弦等の証が現れない場合は未だ邪は太陽経にあり陽明少陽経に伝わっていないのである。
6条 太陽病発熱し渇し悪寒せざる者は温病と為す。
頭項強痛の太陽病証が有り発熱し喉が渇き寒気は無く身熱「脈大 滑 弦」を現す時は温病である。陽気が損じられたのでなく陰気巡らない事に因る熱の滞り。 …傷寒例6条
7条 若し汗を発し已り身灼熱する者は名づけて風温と曰う、風温の病たる脈陰陽倶に浮 自汗出で身重し多く眠睡し鼻息し必ず鼾し語言出し難し若し下を被る者は小便不利し直視し失溲す、若し火を被る者は微なれば黄色を発し劇しければ則ち驚癇の如く時にけいしょう瘈瘲す、若し火にて之れを熏ずれば一逆尚日を引き再逆は命期を促す。傷寒例19条
傷寒を発汗し已り病除かず体が灼け付く様な熱感を覚える場合は更に風に感じたものでこれを風温と曰う、寒邪除かれず風を受け一層陽気を損ない熱の鬱滞を増す、脈状は寸尺倶に浮で陽気乏しく自汗が有り身重し陽気減衰してウツラウツラ良く眠り肺熱して息が荒く呼吸の度鼻を膨らませたり縮ませたりして鼾をかき息が乱れて言葉を出しにくい、脾胃の機能衰え大便が出ないものを誤って下した場合には更に脾胃を損じ小便が出なくなり血熱して意識は朦朧として目は虚ろに直視し小便を失禁する様になる、若し厥を見て灸や焼針など火法を用いると症状が微であれば血熱を増して発黄し症状が劇しければ驚癇の様に時を置いて攣きつけたり弛緩を繰り返す、若し火熏を加えた場合は一層熱を増すので逆治になり治するのに日数を要し更に火熏を重ねると命を縮める事になる。
8条 病みて発熱悪寒する者は陽に発するなり、熱無く悪寒する者は陰に発する也、陽に発する者は七日にして愈え陰に発する者は六日にして愈ゆ、陽数は七 陰数は六なるを以ての故也。
病に罹り発熱悪寒する者は風に中り太陽経に発病したのであり、熱が無く悪寒する者は寒に傷られ少陰経に発病した者である、若し病を伝える事が無ければ太陽経に発病した者は七日位で愈える、少陰経に発病した者は六日位で愈える、此れは陽の実するに要する日数は七であり陰の実するに要する日数は六だからである。陽の成数、陰の成数
9条 太陽病頭痛し七日以上に至り自ら愈ゆる者は其の経を巡り尽くすを以ての故なり、若し再経を為さんと欲する者は足の陽明に鍼し経をして伝えざらしむれば則ち愈ゆ。
太陽病を患い頭痛していた者が七日を過ぎて自然に治癒したのは陽明少陽太陰少陰厥陰と一わたり伝経して正気が充実し太陽経が快復してきたからである、若し正気弱く太陽経の邪が除かれない場合は再経して次に邪に犯されるのは陽明経であるから足の陽明経の穴に鍼し脈気を通じ邪に犯され無いようにしてやれば病は愈えるのである。
10条 太陽病解せんと欲するの時は巳より未の上に至る。風家 表解して了了たらざる者は十二日に愈ゆ。
太陽病が治癒するのは太陽経の脈気が充実してくる午前九時頃から午後二時位の時間帯で此の時間が表の蒸泄機能が最も高まる時間である、風に中てられて表の障害は治癒しているのに尚サッパリしない場合は熱の為に陽明経小陽経大陰経厥陰経の正気が衰えて充分回復されていないからである更に六日間経気の充実する期間を加えて十二日程経てばすっかり良くなるのである。
11条 病人身大熱するに反って衣を近付けるを得んと欲する者は熱皮膚に在り寒骨髄に在る也。身大寒するに反って衣を近付けるを欲せざる者は寒皮膚に在り熱骨髄に在る也。
病人が体に熱が在り熱いのに反って寒気を訴えて衣を羽織りたがる場合には表熱裏寒で体の芯に寒が在るのである、又体は冷えているのに反って熱がり衣を著るのを嫌うのは表寒裏熱で芯に熱が在るのである。
12条 太陽中風、陽浮而して陰弱、陽浮なる者は熱自ら発し陰弱なる者は汗自ら出ず濇濇として悪寒し淅淅として悪風し翕翕として発熱し鼻鳴し乾嘔する者は桂枝湯之れを主どる。
辨脈4条(陽浮陰弱)太陽中23条(汗出)68条(榮弱衛強)参照傷寒例23条(陽盛陰虚は下、陰虚陽盛は汗)辨脉3条(陽不足陰不足)
桂枝湯方
桂枝 表陽を援ける 芍薬 脾熱を去り裏を通じる 甘草 脾陰を補 生姜 大棗
右五味ふ咀し水七升を以て微火にて煮て三升を取り滓を去る、寒温を適え一升を温服す、服し已り須臾に熱稀粥一升余を啜り以て薬力を助け温覆して一時許りならしむ、遍身にチツチツとして微に汗有るに似る者は益々佳し、水の流漓たる如くあらしむべからず、病必ず除かず、若し一服して汗出で病差ゆれば後服を停む、必ずしも剤を尽くさず、若し汗せざれば更に服する事前法に依る、又汗せざれば後服は小しく其の間を促役し半日ばかりに三服を尽くさしむ、若し病重き者は一日一夜服し周時に之れを観、一剤を服し尽くして病証猶お在る者は更に作りて服させ若し汗出でざる者は乃ち服する事二三剤に至る、生冷粘滑肉麺五辛酒酪臭悪等の物を禁ず。
陽脈浮、陰脈弱の脈状は裏虚し血虚を表す脈であるが(辨脉4条)太陽中風で陽脉寸口脉「及び輕按の脉」が浮の場合は衛気が損なわれ邪熱が表に在る事を表し、陰位の脈尺脈「及び重按の脈」弱(柔で沈細)は榮気の弱、榮弱衛強の脉状で即ち衛気が損なわれ汗が漏れているのである、即ち陽脈浮陰脈弱は中風の緩脈を表す(辨脉16条、平脈27条、太陽上2条)、衛気が乏しく汗で冷えてぞくぞく寒気し風に触れるとざわざわ悪風し蒸泄が衰え熱が滞ってカッカッと発熱し熱気が上衝し上気道に蒸泄の皺寄せが及び鼻がクスンクスンし裏虚肺熱して胃気逆しからえずきする、中風で衛気を損じ汗が出ている場合は脾胃を補い衛気を援ける桂枝湯の主治である。
13条 太陽病頭痛発熱し汗出で悪風する者は桂枝湯之れを主どる。
太陽病証で頭痛発熱し汗が有り悪風が有る場合は中風、桂枝湯の主治である。
14条 太陽病項背強ばること几几、反って汗出で悪風する者は桂枝加葛根湯之れを主どる。
桂枝加葛根湯方
葛根4兩芍薬2兩甘草2両生姜3両大棗12枚桂枝2両
右6味水1斗を以って先に葛根を煮て2升を減じ上沫を去り諸藥を入れ煮て3升を取り滓を去り1升を温服す、覆いて微に汗に似たるを取る、粥を啜るをもち須いず餘は桂枝法の如し。(宋本では麻黄を加えてあるが誤りであらう)葛根は陽明経脈を潤し経筋の強ばりを除く、太陽病で項背が攣きつれて鳥が羽ばたくときのようで葛根湯のような証であるが(葛根湯の証に)反して汗が有り悪風する場合は一層陽気乏しく熱の鬱滯を生じているもので桂枝湯に葛根4両を加えた桂枝加葛根湯の主治である。
15条 太陽病之れを下して後其の気上衝する者は桂枝湯を与うべし、方は前法を用う、若し上衝せざる者は之れを与うるべからず。
太陽病証が未だ除かれていないのに陽結を陽明と誤って下した、若し熱が胸膈に入れば結胸や協熱するが虚がそれ程でなく裏の病証は起こらなかったが陽気を損じ頭部の陽中陽位に陽気が集中し動悸やのぼせ等上衝の証を現した場合は表の陽気を援けるには桂枝湯を与える、方剤の用い方は前の通りである、若し上衝が現れない場合には胃気を損じたのである、桂枝湯を与えてはならない、裏を救わねばならない。
16条 太陽病三日已に汗を発し若しくは吐し若しくは下し若しくは温鍼し仍お解せざる者は此れ壊病と為す、桂枝与えるに当たらざる也、其の脈証を観、何れの逆を犯したるかを知り証に随い之れを治せ。
太陽病三日は邪表にある時期ではあるがその間に已に発汗し或いは吐し或いは下し或いは温鍼などの処置を施し尚病証が除かれないのは壊病になっているのである、太陽病三日とは言っても壊病を起こしては桂枝湯の適証とは限らないので其の脈や証を観てどんな誤治に因るものであるかを知りその上で証に随って治法を用いねばならない。
17条 桂枝本解肌を為す、若し其の人 脈浮緊発熱し汗出でざる者は与うるべからざる也、常に須らく此れを識り誤らしむることなかるべき也。
桂枝湯は本来表の蒸泄機能の障害されたのを治する薬方で表を開き発汗させる方剤ではない、もし病人の脈が浮緊で発熱し無汗の場合は寒に傷られ栄気の滞りを生じているのであるから桂枝湯の適証ではない、このことを弁え誤ってはならない。
18条 若しくは酒客の病には桂枝湯を与うべからず、湯を得れば則ち嘔す、酒客は甘を喜ばざるを以ての故也。
或いは酒を飲んだ人が頭痛発熱乾嘔など桂枝湯証類似の病証を現す場合桂枝湯を与えてはならない、酒客は辛味を多く取り過ぎ胃熱を生じ発散過度により津液乏しく熱の滞りを起こしているのである、又桂枝湯には甘味の薬物が多く用いてあるので更に胃熱を増し上逆して嘔するに至る。 膠飴は脾胃を補う(脾胃に負担なくカロリーを補う)
19条 喘家は桂枝湯を作り厚朴杏子を加えるが佳ろし。
痰持ちの人が桂枝湯証を発した場合は肺熱を生じ易く桂枝湯に厚朴杏子(各2)を加えるのがよろしい。
20条 凡そ桂枝湯を服し吐する者は其の後必ず膿血を吐する也。
桂枝湯を服し吐する者は甘味が胃熱を増すからで元々胃熱があり陽気勝る為の表熱で胸膈にも熱が滞る、榮氣を補うべきに桂枝湯を与え更に榮氣を損ずれば一層表熱の滞りを増し肺熱を増すことになるので肺廱を為せば多くは膿血を吐するに至る。
21条 太陽病汗を発し遂に漏れ止まず、其の人悪風し小便難く四肢微急し以て屈伸し難き者は桂枝加附子湯之れを主どる。
…亡陽(汗の太過)陽明66条参照
太陽病を発汗させたところ亡陽し汗が漏れ出て止まらなくなり、悪風がし血中の津液を亡ぼし小便が出難くなり手足が攣れて屈伸し辛い等の新たな病証が現れた、これは裏虚表熱のものを過度に発汗させた為に陽気を失い津液通じなくなったもので附子を加えて経を通じ桂枝湯で表を援ける、桂枝加附子(0.2)湯の主治である。
22条 太陽病之れを下して後脈促胸満する者は桂枝去芍薬湯之れを主どる、若し微悪寒する者は去芍薬方中に附子を加えたる湯之れを主どる。 促脈 辨脈13条
太陽病で表証が未だあり陽結を陽明と誤って下しをかけて陽気を損じ結胸 協熱利には至らなかったが肺熱を生じ促脈「数脈時に一止」胸満を起こした、この時は表の陽気を援けて肺熱を表に戻して発散させねばならない、桂枝去芍薬湯の主治である「芍薬は脾陰を益す、胃気を弱め陽気を援けるには邪魔になる」、若し微悪寒がある場合は陽気の虚損甚だしいのである、附子を加え経を通じる、桂枝去芍薬加附子湯の主治である。
23条 太陽病之れを得て八九日瘧状の如くに発熱悪寒し熱多く寒少なく其の人嘔せず清便自ら可ならんと欲し一日二三度発す、脈微に緩なる者は(微而緩ではない微と緩では相反する)愈えんと欲すと為す也、脈微而して悪寒する者は此れ陰陽倶に虚す 更に汗を発し更に下し更に吐すべからざる也、面色反って熱色ある者は未だ解せんと欲せざる也 其の小しく汗出ずるを得る能わざるを以て身必ず痒し桂枝麻黄各半湯に宜し。
辨脈16条 太陽中18条(脈緩) 陽明29条参照
太陽病に罹り八九日は邪少陽に入る時期である、瘧の様に発熱悪寒を繰り返し熱の期間が寒の期間より長くて温瘧に似ているが吐き気は無く清「大便」便「小便」は普通に良く出ており少陽や陽明の証は無く邪は表に在り発作は一日に二三度繰り返す、これは陰陽不調和により蒸泄が滞っているのであるが若し脈状に微に緩が加わり拍動が緩んできた場合は陰陽は調和を回復し治癒に向かおうとしているのである、若し脈微で悪寒する場合は栄衛倶に虚し厥陰の陰陽勝復であるからこの上発汗させたり吐下させたりしてはならない、(胸中のムカムカや不大便が有っても)先救裏の原則に依り四逆湯で裏を救う、脈状に緩が加わり治癒に向かう筈なのに顔色はポッポッと熱を増したように真っ赤になっている場合は陽気乏しく少し汗が出足りなかった為寒邪を除き切れずに熱が鬱滞しているのだから体が痒い筈である、この時は桂枝麻黄各半湯を用いるのが宜しい。
24条 太陽病初めに桂枝湯を服し反って煩し解せざる者は先ず風池 風府を刺し却りて桂枝湯を与えれば則ち愈ゆ。
太陽病証の者に先ず桂枝湯を与え治癒する筈なのに反って煩の証が現れた、これは太陽経脈に栄衛の通じない所が有り熱の鬱滞を起こしたのである、この場合は先に風池 風府の穴を刺し経脈を通じた上でもう一度桂枝湯を与えれば治癒する。(血熱)
25条 桂枝湯を服し大いに汗出で脈洪大の者は桂枝湯を与える事前法の如くす、若し形 瘧の如く日に再発する者は汗出でて必ず解す、桂枝二麻黄一湯に宜し。
…陽明60条參照(瘧状の如くに日晡所発熱)
桂枝二麻黄一湯の方
桂枝1.7芍薬1.25麻黄0.67杏仁0.69甘草1.08大棗1.75
右七味、水五升(一合)を以って先ず麻黄を煮て一二沸し上沫を去り諸薬を内れ煮て二升(四勺)を取り滓を去り温めて一升(二勺)を服し日に再服す。
桂枝湯を服し(中風)汗が大いに出て解せず脈洪大は邪熱旺んであるから邪が強く陽気が乏しいために陰陽の調和が得られず熱が滞っているのである(裏気虚)、もう一度桂枝湯を与えて表の陽気を援けてやれば宜しい、若し脈洪大、瘧のように発熱し悪寒し日に再発する場合は湿が多く風去り内に熱が塞がれたもので発汗が適切でなく大いに汗を出させ衛気を損じたのである、このときは桂枝二麻黄一湯を与えれば治癒する。…湿11条參照、(風湿を治せんと欲する者は…)
26条 桂枝湯を服し大いに汗出でて後大煩渇し解せず脈洪大の者は白虎加人参湯之れを主どる。
…発汗過多 陽明65、66条(裏に陽絶)参照 亡陽太陽上21条
白虎加人参湯
白虎湯方内に於いて人参三両を加え余は白虎湯方に依る
桂枝湯を服し大いに汗出後大煩渇し不解脈洪大の場合は内熱が多く陰気が乏しい者を更に陽気を援けた為、大量に発汗し津液を損じ一層熱の鬱滞を増し血熱を生じたのである、この場合は脾気を補い血熱を冷まし津液を通じる、白虎加人参湯の主治である。
27条 太陽病発熱悪寒し熱多く寒少なきも脈微弱の者は此れ陽無き也、更に汗すべからず、桂枝二越婢一湯方に宜し。
…25条より衛気弱く脈は微ではないが弱い。
桂枝二越婢一湯の方
桂枝 芍薬 甘草 生姜 大棗 麻黄 石膏
右七味ふ咀し五升の水を以て麻黄を煮て一二沸し上沫を去り諸薬を内れ煮て二升を取り滓を去り一升を温服す、本方は当に裁ちて越婢湯と桂枝湯を為す、合わせて一升を飲むべきも今合わせて一方、桂枝二越婢一と為す。
太陽病で発熱悪寒を繰り返し熱証が多く寒証が少ない場合でも脈が微弱の場合は裏寒し陽気が乏しいのであるから重ねて発汗せず先に裏を救わねばならない四逆湯である、脈微弱で無い場合は(微ではない)湿のある者を大汗し衛気を減衰させて湿除かれず熱の鬱滞を増したのである、桂枝二越婢一湯が宜しい。…裏水を伴う
28条 桂枝湯を服し或いは之れを下し仍お頭項強痛し翕翕と発熱し汗無く心下満して微痛し小便利せざる者は桂枝湯去桂加茯苓白朮湯之れを主どる。 (各3)太陽下45条
桂枝湯を服し或いは下したが頭項強痛が除かれず更にカッカッと熱くなって発熱し汗無く心下満微痛し小便不利する場合はもともと脾胃虚する者を発汗し或いは下して更に胃気を虚せしめた為に胃気滞り停水を生じ胃に湿熱を生じて陽気巡らず熱が鬱滞しているもので表は仮証である。桂枝湯去桂加茯苓白朮湯で胃内の停水を除き脾胃を援け裏気通じれば栄衛巡り表の仮証は除かれる主治薬である。…胃内停水し栄衛巡らず表の仮証
29条 傷寒脈浮自汗出で小便数心煩微悪寒し脚攣急するに反って桂枝湯を与え其の表を攻めんと欲するは此れ誤り也、之れを得て便ち厥し咽中乾いて煩燥し吐逆する者は甘草乾姜湯を作り之れを与え以て其の陽を復す、若し厥愈え足温まる者は更に芍薬甘草湯を作り之れを与えれば其の脚即ち伸ぶ、若し胃気和せず譫語する者は少しく調胃承気湯を与う、若し重ねて汗を発し復た焼鍼を加える者は四逆湯之れを主どる。 …裏寒外熱
甘草乾姜湯の方
甘草4 乾姜2
右ふ咀し水三升を以て煮て一升五合を取り滓を去り分かち温め再服す。
芍薬甘草湯の方
白芍薬4 甘草4
右二味ふ咀し水三升を以て煮て一升半を取り滓を去り分かち温め之れを再服す。
調胃承気湯の方
大黄4 甘草2 芒硝8
右三味ふ咀し水三升を以て煮て一升を取り滓を去り芒硝を内れ更に火に上せ微に煮て沸せしめ少少温服す。
四逆湯の方
甘草2 乾姜1.5 附子0.2(生)(白川 1.0)
右三味ふ咀し水三升を以て煮て一升二合を取り滓を去り分かち温め再服す、強人は大附子一枚乾姜三両も可。
傷寒脈浮、自汗出は少陰亡陽、表熱の鬱滞甚だしく 小便数は下焦寒、心煩は肺熱 微悪寒は陽虚 脚攣急は陰虚血虚、則ち両感には至らないが栄衛倶に虚し病証は裏寒外熱、上熱下寒である、先ず裏寒を救わねばならないのに桂枝湯を与え表を攻めるのは誤りである、桂枝湯を与え更に陽気を虚せしめ津液を損じ手足が冷え血熱し咽中は乾燥し煩燥し陰気逆して吐逆する者には直ぐに甘草乾姜湯を与え胃気を救わねばならない、若し胃気が回復し冷えがとれて手足が温まってきたら脾陰を補って裏気を通じ筋を潤し攣急を除くには芍薬甘草湯を与えると良い、若し胃熱が過ぎてうわ言を言う様に成った場合は少量だけ調胃承気湯を与えて胃熱を冷ましてやると良い、若し熱を見て重ねて発汗し其の上厥を見て焼鍼を加えた場合は逆を重ねて胃気だけでなく腎の元陽も滅ぼし同じ厥、咽中乾燥 吐逆でもこの場合には四逆湯の主治である。…吐逆の証をとって甘草乾姜湯 …脾虚し胃気不通
30条 問うて曰く 証は陽旦を象どる、法を按じ之れを治し益々劇しく、厥逆し咽中乾き両脛拘急し譫語す。師の曰く夜半に手足当に温まるべし両脚当に伸ぶべしと云われたるに後師の言の如し、何を以てか之れを知る。答えて曰く 寸口の脈浮而して大、浮は則ち風と為し大は則ち虚と為す、風は則ち微熱を生じ虚は則ち両脛攣る、病証は桂枝に象どるに因り附子を加え其の間に参えるも桂を増し汗を出さしむ附子は経を温めるも亡陽せる故也、厥逆し咽中乾き煩燥す、陽明内に結するは譫語し煩乱す、更に甘草乾姜湯を飲ませれば夜半には陽気還る、両足当に熱すべし、脛尚微に拘急するは重ねて芍薬甘草湯を与えよ、爾かすれば乃ち脛伸ぶ、承気湯を以て微に溏すれば則ち其の譫語止む、故に病愈ゆべきを知る。…裏寒が有り胃気結である。
病証は中風桂枝湯の証そっくりだったので治法を考えて治を施したが病状が益々劇しくなって手足は厥逆し咽中乾きふくらはぎが攣りうわ言するようになった、師の言われるには甘草乾姜湯を与えれば夜半には手足が温まり両足の攣りが治るだろうと言われたが其の通りであった、病人の脈は浮而大、浮は風に犯され衛気が損なわれたことを表し大は按じると空虚で血虚を表している、風熱は微であり血虚の為に筋急しふくらはぎが攣れている、病証は桂枝湯そっくりであっても栄衛倶に虚し津液が巡らず熱の鬱滞を生じているのであり衛虚栄実ではない、其れを厥逆があったので附子を加えたとは言っても厥逆は亡陽に因るもので附子は少陰経を温め経を通じはするがこの場合は胃気を援けて陽気を増さなければ救う事はできない、その上 桂枝が入ったので汗を出させ一層陽気を損じ亡陽させてしまったもので厥逆し咽中乾燥き(肺熱)煩燥の証が現れる、下焦の寒に因り胃熱が結する場合はうわ言し煩乱するが、此の胃熱は胃気結し脾胃交わらない為であるからこの場合はあえて胃気を援ける為に更に甘草乾姜湯を飲ませれば夜半過ぎ陽気を増してくる時間になれば正気が回復し両足は温まる、…己に附子を加え少陰経を通じているから附子を外す…若し脛の攣りが残るようなら芍薬甘草湯を与えれば脛も伸びる、若し胃熱が残りうわ言する場合は承気湯を用い少し下利させてやればうわ言もとれ此れで病は愈える筈である。
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