傷寒論 辨痙湿暍脈証 第四

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傷寒論 辨痙湿暍脈証 第四

何れも雑病で痙は燥熱の鬱滞に因る太陽経筋の硬直。湿と寒湿があり陽気の強弱で湿痺、風湿、風湿相搏の病証を現す

1条 傷寒致す所の太陽と痙湿暍の三種は宜しく論を分くるに応ずべきも傷寒と相似るを為すを以ての故に此に之れを見らわす。

傷寒の太陽と痙湿暍の太陽とは同一ではないが似た所があるので此に章を設ける。

2条 太陽病発熱汗無く反って悪寒するは名づけて剛痙と曰う。 金匱痙1条

太陽病発熱し筋肉の硬直を伴ない汗無くは少陰亡陽亡津液では無く、反って悪寒が有るのは傷寒の風寒(傷寒例22条)に加えて此れは燥氣を挟むもので汗無くは衛氣強く表閉じ榮氣弱く燥熱鬱滯し経筋が乾き硬直を起こすのである、表実の痙を剛痙と曰う。
…素 至真要大論 諸の痙 強項は皆湿に属す…即ち脾土の機能と関係がある。

反っては3条と互文。表実の痙病で燥氣を挟み表塞がり熱が鬱滞し経筋燥くに因る。

3条 太陽病発熱汗出で悪寒せざる者は名づけて柔痙と曰う。金匱痙2条

太陽病発熱汗出で硬直を伴い悪寒せずは少陰の亡陽亡津液とは異なり中風に燥を挟むもので前条と同じく榮氣弱い者が風に中り衛氣を損じ熱の鬱滯を増して筋乾き拘急するもので此れを柔痙と曰う。表虚の痙病である。

4条 太陽病発熱し脈沈而して細なるは名づけて痙と曰う。金匱痙3条

太陽病発熱し脈沈で細の場合は痙病である、太陽病は脈浮であるが此の場合は血虚に寒が加わり熱の鬱滞を生じ痙を為したもので難治である。…血虚に寒邪を被り痙を発する この沈而細は微の意でなく緊張する脉。

5条 太陽病発汗すること太はだ多きに因り痙を致す。金匱痙4条

太陽病を大いに発汗させ過ぎて亡陽亡津液を起こし熱の鬱滞を増せば痙病になるのである。則ち栄気虚し衛気損なわれ蒸泄が阻害されて熱が鬱滞すれば痙を起こすのである。

6条 病 身熱し足寒え頚項強急し悪寒し時に頭熱し面赤く目脈赤く独り頭面揺らぎ卒かに口噤し背反張する者は痙病也。
金匱痙7条

下焦の陽虚に湿が加わり上焦に熱の鬱滞が劇しく痙を発したもので身熱 足寒(湿)頚項強急 悪寒 時を置いて頭熱 面赤 目脈赤くなり頚筋が硬直する為に頭を支えられず揺らぎ突然歯を食いしばり背筋が硬直してのけ反る、此の様な病証は熱の鬱滞が劇しく三陽経に及び血が熱を被り熱気が上衝しているのである。…陽虚し湿を伴う痙

7条 太陽病 関節疼痛し而して煩(疼煩)し脈沈而して細の者はこれ湿痺と名ずく、(水気表を塞ぐ)湿痺の候は小便利せず大便は反って快す、但当さにその小便を利すべし。

太陽病関節疼痛し煩するは傷寒であるが脉が緊でなく沈而細(実)の場合は(宋版解説に細が緩のものもある)湿に障害されて血行表に伸びず深部に熱が鬱滯したもので沈は湿の脈、細は陽気抑えられたもので湿痺と曰う、湿痺の症候は小便不利し大便は(下利.便秘せず)反って快便であるが裏氣滞る為の尿不利ではなく下焦の中湿で体液代謝滞り尿不利するもので組織に体液貯留し血流表に伸びない為の病症で熱が深くに鬱滯して関節疼痛し血熱し煩するのである、この場合の治法は発汗法でなく尿利の方から撰用するのが良い。參照23条大便く小便自利(白朮附子湯)。湿痺は湿気に中り表に血行が障害され深部に熱が鬱滯した病症、少陰なら麻黄(甘草)附子湯(水気25条)文蛤散(太陽下14条)などより撰用

8条 湿家の病たる一身尽く疼き発熱し身色薫黄に似たるが如し。 …金匱湿15条

湿を病む者は熱が鬱滯して湿熱を生じ体中何処と言わず疼き発熱し体色はくすんだ黄色を発する。…発黄する者で湿に因るもの(表熱型)文初に発黄者を加えると判り易い

9条 湿家にて其の人但頭汗出で背強ばり被覆を得て火に向かわんと欲す、若し之れを下す事早ければ則ち噦し胸満し、小便利せず舌上に苔有る如き者は丹田熱有り胸中寒有るを以て渇して水を得んと欲し而して飲む能わず則ち口燥煩する也。
陽明31条參照、金匱湿16条

湿を病む者で但頭にだけ汗があり背筋が強張り(表陽虚し湿熱が鬱滞)寒気がして重ね着して火に当たりたいと思う、若し発熱頭汗不大便をみて陽明熱と誤り寒気がして未だ表証が残っているのに下すのが早過ぎると更に胃気を虚せしめしゃっくりがでたり(呉茱萸湯)、或いは表熱内陥し肺気を損じると胸が一杯につまり(厚朴大黄湯)、小便がよくでず舌上に舌胎様のものが出ている場合は陽気乏しく肺気も減衰し下焦膀胱に熱が入ったもので血中湿熱を生じ湿熱のため喉は渇くが脾胃に虚寒があるので飲む事ができず血潤わず口中はしやぐのである。(猪苓湯)(少陰39条、陽明45条参照)

10条 湿家之れを下し額上汗出で微喘し小便利する者は死す、若し下利止まざる者も亦死す。 金匱湿17条

湿家の黄を陽明瘀熱の黄疸と間違えて下してしまい、額上だけに汗が出、微喘し小便が良く出る場合は胃気を亡ぼし下焦に陽虚し津液巡らず陽気上焦に止まるもので、死証である、又下した後下利が止まらなくなった場合も協熱下利で脾胃虚寒が甚だしく津液を失い栄衛倶に亡ぼしこの場合も死証である。

11条 問うて曰く 風湿相愽つは一身尽とく疼痛す、法当に汗出でて解すべきに天の陰雨に値い止まず、医云う 此れ汗を発すべし、之れを汗して愈えざる者は何ぞや。答えて曰く その汗を発するに汗大いに出ずる者は但風気去りて湿気在り、此の故に愈えざる也、若し風湿を治せんと欲する者は其の汗を発するに但微微として汗出でんと欲するに似る者は風湿倶に去る也。
金匱湿18条同文

風による表の蒸泄障害と湿による表の津液停滞を同時に受け熱が籠って体中が痛む場合は当然治法としては発汗法を用いるべきであるがこの場合には衛虚と湿に伴う津液の循環の障害とがあるから大発汗させてしまうと風気は除かれるが陽気虚し津液の循環との調和を快復出来ず湿を除く事が出来ない、風湿を倶に除こうと思うなら陽気を損なわない様に微しづつ汗が滲む程度に気を付けて発汗させ熱を除かねばならない。

12条 湿家の病にて身上疼痛し発熱し面黄し喘し頭痛し鼻塞がり煩し其の脈大、自ら能く飲食し腹中和して病無きは病頭に在りて寒湿に中る故に鼻塞がる、薬を鼻中に入れれば則ち愈ゆ。 金匱湿19条

湿家で体の上半身表面だけに疼痛が在り関節痛は無く発熱面黄喘頭痛鼻塞身熱し脈は沈細でなく浮大で普通に良く食べられ胃腸には何の症状も無い場合は湿の病は上の方だけで上焦に寒湿を受けた為に発散が滞って熱が鬱滞し鼻が塞がるのである、桂枝麻黄各半湯を与え鼻塞が除かれなければ瓜蒂散を鼻中に入れてやれば塞がりは除かれる。

13条 病者一身尽く疼き発熱し日晡所劇しき者は此れ風湿と名づく、此の病は汗出で風に当たりて傷られ或いは久しく冷をとり傷られて致す所也。 金匱湿21条

病人が体中が疼き熱が出て日暮れになると一層劇しくなる場合は風湿と曰うのである、此れは汗をかき体が湿った儘衛気を弱め更に風にあたり衛氣を損じ或いは汗をかき体が湿った侭久しい間涼をとり冷氣を被って衛氣を減衰させ湿に衛気の損傷が加わった為の病証である、衛気の損傷に因る蒸泄力の低下に加え湿に因る表の塞がりで熱の鬱滯が強く午後は陽気内に移るので一層熱の鬱を増し症状が劇しくなるのである。

14条 太陽中熱の者は暍此れ也、其の人汗出で悪寒し身熱し渇する也。 金匱26条

表に暑熱を被り汗出ずること多く栄衛損なわれ熱が鬱滞したものを暍と曰うのである、其の病証は汗が出て悪寒し熱が鬱滞して身熱がありその上渇を現す、熱を被り汗多くで血中の津液奪われて胃中燥き血熱を生じて喉が渇くのである、悪寒は表証でなく陽気内陷し表気巡らないのである。 …白虎加人参湯

15条 太陽中暍の者 身熱疼重し脈微弱なるは此れ夏月冷水に傷られ、水 皮中へ行きて致す所也。 金匱暍27条

太陽中暍の証が在り身熱があって体が重く疼き脈は大や滑では無く微弱であるのはの虚証で夏冷たい水を多くとり脾胃を損じ胃中に水滞を生じ陽気を乏しくし皮中に停水を生じ熱が発散出来なくなった者で僅かの暑熱にも耐えられないのである、この場合は胃内の停水が原因で陽気を乏しくしているのであるから一物瓜蒂湯で水を吐せば良い。

16条 太陽中暍の者、発熱悪寒身重し疼痛す、其の脈弦細芤遅、小便已りて灑灑然として毛聳だち手足逆冷し小しく労する有れば身即熱し口開き前の板歯燥く、若し汗を発すれば則ち悪寒甚だしく、温針を加えれば則ち発熱甚だしく、数しば之れを下せば則ち淋甚だし。 金匱暍25条

太陽中暍は暑に当てられて大量に汗が出(脱汗)、栄衛を損じて発散出来なくなり両熱(暑熱と滞る熱)合して合熱が鬱滞する病症で陽気内陥して発熱悪寒身重し熱を増し更に疼痛し、脈が弦細遅で勢いが無く(陰虚熱)按じて芤は表に陽気を損ない脱汗の汗で血中の津液も消耗され栄衛倶乏しく太陽の府である膀胱からも尿で熱を抜くので小便が出已った後(百合1条参照、熱除かれ)、陽氣内陷しゾクゾク鳥肌立ち末梢の血流も低下し手足先から冷たくなる、津液が乏しいので一寸働いても熱の鬱滯を増し直ぐに身熱し肺にも熱が籠りハアハア口呼吸し熱気で前歯が乾く、この病状を誤って表実熱気の上衝とし桂枝麻黄劑で発汗させると更に陽気を損ない悪寒は一層甚だしくなる、悪寒を見て寒を去るために温針を加えると更に血熱をまし一層発熱が甚だしくなる、胃中の津液乾き大便が出ないのを陽明と誤り度々下すと脾胃を虚せしめ一層津液を亡ぼし膀胱熱を増し小便はタラタラしか出ず排尿痛を起こす。

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